artscapeレビュー

試写『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』

2019年12月01日号

名画をめぐるオークションの話はよくある。父と娘と孫の愛憎物語も珍しくない。でもその二つが絡み合う映画は見たことがなかった。時代に取り残された老画商が、オークションハウスで1点の肖像画に目を止める。サインはないが、もしかして、名のある画家の知られざる作品? そろそろ店じまいを考えていた画商は、最後に一花咲かせようと、この1点に賭ける。そのころ、音信不通だった娘から問題児の孫の世話を頼まれ、聞かん坊だが好きなことには夢中になる孫とともに、その絵の作者を調査。探し当てた作者は、ロシアの巨匠イリヤ・レーピンだった。しかし落札するにも金がない。画商は資金繰りに奔走し、とうとう孫の貯金にまで手を出してしまう。怒った娘は父と断絶……。

最後は父の死により家族のわだかまりは消え、物語としては丸く収まるのだが、なにか引っかかる。それはおそらく、老画商が芸術的価値を見抜く才能を持っているのに、それをあっさり金銭的価値に転換させてしまったことだ。もちろん画商は芸術的価値を金銭的価値に置き換えるのが商売だから、むしろそれをしないのは画商失格だが、しかしこの画商は作品がレーピンのものだと直感した瞬間から金の亡者と化してしまい、いかに金を集めるかばかりを考えてしまう。そうでなければ物語が進まないことはわかっているけれど、なんかこの主人公には共感できないなあ。

2019/11/06(水)(村田真)