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特別展「きもの KIMONO」

2020年07月15日号

会期:2020/6/30~2020/8/23(※)

東京国立博物館 平成館[東京都]

※前期展示は2020/6/30~7/26、後期展示は2020/7/28~8/23。


「鎌倉時代から現代までを通覧する、初めての大規模きもの展!」というキャッチフレーズのとおり、本展は本当に盛りだくさんの内容だった。約300件という展示規模のみならず、国宝や重要文化財の着物が何点か登場するのも見どころだ。まさに東京国立博物館のコレクション力を見せつけられた。例えば重要文化財のひとつである《小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆》。これは尾形光琳が京都から江戸へ向かう途中、寄宿した商家の奥方に、世話になったお礼に描いたと伝わる逸品だ。光琳が小袖に直接描いた作品のうち、完全な着物の形で遺されているのはこれただひとつだという。そんなすごい作品だと知ると、鑑賞する目も変わってくる。また何でもそうだが、本物を間近で見られるのが良い。着物の織りや地模様、絞りや文様染め、刺繍などの細工がありありと伝わってくるからだ。

展示風景 東京国立博物館 平成館

重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

もっとも見応えがあったのは「3章 男の美学」である。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3武将が着用したと伝えられる着物が展示されていた。これこそ本物を見られる機会なんて滅多にない。なかでも織田信長所用の陣羽織がユニークだった。腰から上の身頃がすべて山鳥の羽毛で覆われていたのだ。背中に大きく揚羽蝶の家紋が入れられているのだが、その家紋は白い羽毛で、背景は黒い羽毛で表現されていた。羽毛一本一本を生地に刺し込んだ後、表面を切り揃えて仕立てられたもののようだ。当時、戦国武将は珍しい素材と突飛な技術を用いて比類ない着物を誂え、その勇姿を誇示したそうだが、3武将のなかでも信長はどこかエキセントリックな印象がある。それゆえ羽毛を意匠に用いたのもなんとなく頷けた。

陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵

また、鳶の者が火消しの際に身につけた火消半纏も見応えがあった。裏地に刺子で武者絵の模様を描き、火事を無事に消し止めると、半纏を反転させてその派手な模様を見せて市中を歩いたのだという。なかには前身頃から袖にかけて髑髏模様、後ろ身頃に平知盛の亡霊を描いた火消半纏があり、その迫力ときたらなかった。それは武将と同じく勇敢さを誇示するという面もあるが、悪霊や亡霊などの霊力を借りて、火の中に飛び込んだという面もあったのではないか。まさに江戸時代の男の美学を知る一端である。衣服やファッションという概念を超え、文化人類学的な視点で着物を考察する良い機会となった。


公式サイト:https://kimonoten2020.exhibit.jp/

※混雑緩和のため、本展では事前予約制を導入しています。来館前にオンラインで「日時指定+観覧セット券」あるいは「日時指定券」を予約ください。

2020/06/29(月)(杉江あこ)

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