artscapeレビュー
弘前れんが倉庫美術館「Thank You Memory─醸造から創造へ─」
2020年07月15日号
会期:2020/06/01~2020/09/22
弘前れんが倉庫美術館[青森県]
新型コロナウイルスの影響によってオープンが遅れていた弘前れんが倉庫美術館を訪れた。この場所は奈良美智の「A to Z」展(2006)以来なので、14年ぶりの再訪になる。これは注目の若手建築家、田根剛による日本国内の最初の公共施設となるが、およそ築100年になる建物の外観はほとんど変えていない。彼の署名のように、エントランスに特殊な煉瓦積みを試みたり、金色に輝く屋根に葺き替えたりしたくらいだ。また内部も長い歴史の記憶をとどめるかのように、壁の質感を残し、二階の旧事務室・旧研究室では木造の壁やガラスなど、来館者が見えない部分でもオリジナルを保存している。
日本のリノベーションは、完成すると小綺麗になってしまいがちだが、遺跡のように残った倉庫の雰囲気をよくとどめた空間だ。そういう意味では、ヨーロッパ的なスタイルを感じさせる。もっとも、ただ保存したわけではなく、美術館において新しく挿入した階段をあえてエイジングしたり、カフェ・ショップ棟は正面の外壁以外は新築だが、既存の倉庫と調和する煉瓦を用いるなど、いろいろ工夫をしている。
さて、同館のオープニング展は、もともと酒造工場だったことから「醸造」というキーワードが用いられ、弘前という場所の記憶をめぐる作品群によって構成されていた。特に冒頭の畠山直哉+服部一成は、倉庫の歴史をリサーチしつつ、過去に使われた建築の断片を紹介していた。天井高が15mに及ぶ展示室3の大空間に面するナウィン・ラワンチャイクンと尹秀珍も、弘前の人物や街をテーマに作品を新規に制作していた。もっとも、コロナ禍のため、海外在住の作家はリモートでの設営となり、大変だったらしい。地元出身の奈良美智は、めずらしく写真の作品を展示していた。潘逸舟は、かつて弘前にて芸術で暮らした経験と記憶をもとにインスターレションを出品していた。
この美術館は特別なコレクションをもってスタートするわけではなく、こうした展覧会を通じて新規に制作された作品を収集するという。とすれば、活動を継続することによって、弘前の地域資産を掘り起こしながら、それを蓄積していくことになるはずだ。
2020/06/28(日)(五十嵐太郎)