artscapeレビュー

dracom『STAY WITH ROOM』

2020年07月15日号

会期:2020/04/11〜

『STAY WITH ROOM』はdracomによる音声作品。2020年6月までに【Prologue】【1】【2】【3】の4本とdracomのリーダー筒井潤ソロ名義での特別編『ずっと、いたんだよ』が公開されている。この作品の面白さについては出オチ的な側面も強いので、レビューの続きを読む前にぜひ作品本編を鑑賞していただきたい。【Prologue】は約6分と短め、もっとも長い特別編でも約13分となっている。



タイトルが示唆する通り、『STAY WITH ROOM』はステイホームが叫ばれるなか、「部屋にいること」そのものに焦点をあてた作品だ。5本の作品はいずれもYouTubeで公開されていて、本編が始まる前には「スピーカーを使用した、微かに聴こえるほどの小音量」と「フルスクリーン再生」が推奨する鑑賞方法であるとの注意書きが表示される。音声作品であるにもかかわらず「フルスクリーン再生」が推奨されているのは、ディスプレイがオフになっているかのような状態をつくり出すためだろう。タイトルが表示されると画面はゆっくりと溶暗し、以降、画面は黒一色となる。

「こっち見て」「こっちこっち」「こっちだって」「わからない?」と囁く声はまるで鑑賞者である私のことを知っているかのような口ぶり。「たまにはこっちを見て」というその何者かの正体は「あなたの部屋」だ。【Prologue】は「見てくれてない」「だからたまには見て」という部屋がしばしの沈黙の後、「ちゃんと見てる?」と再び問いかけるところで終わる。

部屋が語りかけてくるというワンアイデアが作品として成立するのは、ユーモラスな語り口とアイデアをシリーズとして転がす機知のなせるワザだろう。そこにはしかし部屋の存在論とでも呼ぶべき哲学的(?)問いも孕まれている。【1】の冒頭は【Prologue】のラストを反復するように始まるのだが、「見て、じーっと、部屋を」という言葉に従って自室を眺めていた私は続く「違う、こっちじゃない」「それは壁」という言葉で思わず笑ってしまった。なるほど確かに私が見ていたのは壁だった。しかしそれでは「部屋を見る」とはいかなることか。部屋の内部にいながらにしてそれは可能なことだろうか。

オンラインを使って演劇を成立させようとするとき、鍵となるのは観客の想像力だろう。いかなるかたちであれ、観客が作品を鑑賞している現実だけはリアルタイム=生のものであり、そこに演劇を立ち上げる契機がある。『STAY WITH ROOM』はパソコンのディスプレイがオフになっている状態を擬態しつつ「声」だけを聞かせることで、観客のいる部屋を「俳優」に仕立て上げる。このとき部屋は俳優であると同時に劇場でもあるわけだ。

だが、「違う」「それは壁」という「部屋」の言葉は観客の想像力をはぐらかす。生真面目な観客は、それが「演劇」的なものだとわかっているからこそ、聞こえてくる言葉を「部屋」が語るそれとして受け取ろうとするだろう。だが、「私が見ているこの部屋が語っているのだ」という観客の想像は、部屋の「違う」「それは壁」という言葉で否定されてしまう。つまり声は、観客が想定していたのとは違うところから聞こえてきているのだということになる。ここには何か、単に部屋が語っているのだと想像するのとは違う、よりいっそう演劇的なものがありはしないだろうか。


公式サイト:http://dracom-pag.org/
dracom『STAY WITH ROOM【Prologue】』:https://www.youtube.com/watch?v=iSaFRU4PKO4

2020/05/10(日)(山﨑健太)

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