2020年08月01日号
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artscapeレビュー

建築をみる2020 東京モダン生活(ライフ):東京都コレクションにみる1930年代

2020年07月15日号

会期:2020/06/01~2020/09/27

東京都庭園美術館[東京都]

いわゆる「戦前」を指す昭和初期に、私は興味がある。それは戦争と戦争との貴重な狭間であり、日本がゆっくりと近代化の道を歩んだ時代だからだ。関東大震災後の「帝都復興」を果たした東京には、コンクリートとガラスの近代建築が建ち並び始め、上野〜浅草間で地下鉄が開通した。そして銀座には洋装したモガ・モボが闊歩したと言われる。現実的にはビジネスシーンを中心に男性の洋装が進んだ一方で、女性の洋装は銀座においてもわずか1%程度だったそうだ。しかし衣服は和服でも結い髪を断髪にするなど、洋装スタイルの浸透が少しずつ進んでいた。このゆっくりとした変化が奥ゆかしくて良い。本展はそんな「モダンの息吹」を探る展覧会だ。

石川光陽《資生堂パーラー》1934 東京都写真美術館蔵

展示は本館と新館とに分かれており、昭和初期つまり1930年代の東京の様子を紹介するのは新館の方である。絵画、写真、家具、雑誌、衣服などの展示品から当時の人々の生活が浮かび上がってくる。なかでも写真がもっとも資料性が高く、見応えがあった。展示写真を見ていて気づいたことは、銀座はすでに現代の街並みの骨格が出来上がりつつあったことだ。特に銀座4丁目交差点あたりの写真を見ると、そこが銀座であることを認識できた。一方で、渋谷は風景がまるっきり変わっていて想像もつかない。このように新陳代謝の激しい街と伝統を大事にする街との差が浮き彫りになった点が興味深かった。またモガの格好が、いま見ても、大変おしゃれだったことがわかる。彼女らが非常に先鋭的で、ファッションリーダー的存在だったのは確かだろう。現代にたとえるなら、タレントかカリスマ店員のようなものか。

本館の方は年に一度の建物公開展である。つまり1933年に竣工された朝香宮邸を紹介しているのだが、実はこれまでにも本館は展示品を展示する「箱」として公開されてきた。したがって私は同館を訪れるたびに見てきたのだが、今回、改めて朝香宮邸とはどんな存在だったのかを考える良い機会になった。そもそも施主である朝香宮夫妻が、1925年にパリで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博)」を訪れたのは、朝香宮が欧州視察中、交通事故による治療でフランスに長逗留したためというのが運命的である。ともかくアール・デコ博に大変感銘を受けた夫妻は、後の新邸建設にあたり、フランス人装飾美術家のアンリ・ラパンやルネ・ラリックらを登用してアール・デコ様式を積極的に取り入れた。また基本設計を手がけた宮内省内匠寮にとって、これは威信をかけた大仕事だったのだろう。突板、壁紙、ガラスレリーフやエッチングガラス、タイル、鋳物など、あらゆる内装材が逐一凝っていて、邸内が“素材の見本市”の様相を呈していた。1930年代、庶民の間にはひたひたとモダンの波が押し寄せ、さらに宮中には大波が訪れていたことを知れる展覧会である。

東京都庭園美術館 外観南面

東京都庭園美術館本館 大客室


公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/

2020/06/27(土)(杉江あこ)

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