2020年10月15日号
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artscapeレビュー

ウンゲツィーファ『ハウスダストピア』

2020年07月15日号

会期:2020/07/01〜

『ハウスダストピア』はウンゲツィーファのウェブショップで購入することができる「郵送演劇」。郵送されてくる「チケット」には九つのQRコードが記載されており、観客はそれをスマートフォンで読み込むことでウェブ上の音声にアクセスし演劇を「鑑賞」する仕組みだ。QRコードには「ベッド(布団)」「洗面所」「キッチン」など、それぞれの音声を再生すべき場所が指定されており、観客は自宅のなかを移動しながら、それぞれに「その場所」を舞台とした音声を聞くことになる。

「その場所」といってももちろん、観客たる私の家で実際に何かが起きるわけではない。私はあくまで音声を聞いているだけなのだが、その「何もしてなさ」がむしろこの作品に奇妙な生々しさを与えている。たとえば1とナンバリングされ「ベッド(布団)」での再生が指定されている音声。添えられたイラスト(たからだゆうき)に布団の中でスマホの画面を眺める人物が描かれていることもあり、なんとなく寝転がって音声を再生してみる。聞こえてくるのは寝息らしき呼吸音。しばらくするとスマホのアラームとバイブ音が鳴り、起床した寝息の主は足音から推察するにベッド(布団)から離れていったようだ。一方の私はまだ自分の布団に寝転がったままだ。

『ハウスダストピア』の音声はYouTubeの限定公開動画のかたちで配信されており、「チケット」にはわざわざ「静止画ですので画面を見る必要はありません」と注意書きがある。しかし音声は最大でも5分程度なので、画面を見なくてもよいと言われても、何かほかのことをやりながら視聴するには少々短い。スマホでYouTubeを視聴する場合、有料会員に登録していないとバックグラウンド再生ができないため、私のスマホではながら視聴もできない。ぼんやりと音声を聞くことしかできない、それ以外何もしていない私のすぐそばで、何かが起きているような音がする。

続く2の場所は洗面所。歯磨きを終えると男が語り出す。「この部屋は僕の部屋だ。何故なら僕が住んでいるからだ。でも、そのことは、僕の前に住んでいた人も、さらにその前に住んでいた人も思っていただろう。そして僕の後に住む人も思うのだろう」。私の部屋に漂う幽霊のような声と、部屋に蓄積された記憶。しかしそれは存在しない記憶だ。私のいるこの部屋に、私より前に住んでいた人はいない。

耳を澄ませると聞こえてくるというおじさんの声に関するエピソード(都市伝説?)。身に覚えのない届け物。ここにある/ここにはない、もうひとつの家。やがて声の主は荷物をまとめ、その/この家から引っ越していく。「さよなら」。私はその声を自宅の玄関で聞き、そして取り残される。幽霊のように。

『ハウスダストピア』の最後のパートには「あなたが読むべき台詞が記されて」いる。このことは購入ページの説明書きで前もって告げられている。「あなた」は手紙を待つように自らが読むべき台詞が届けられるのを待ち、そしてそれを読むことになるだろう。手紙=戯曲の言葉が読み上げられることで、そこに書かれた言葉があなたの声で立ち上がる。

『ハウスダストピア』にはHomestay at Home vol.1とシリーズ名が付されている。ウンゲツィーファはこれまでの劇場での公演でも、異なる複数の時空間を劇場という「いまここ」へと巧みに重ね合わせることで、「私たち」が生きる世界のバラバラさと、それでもそれらがひとつの世界であることを描いてきた。自宅でのホームステイと名付けられたこのシリーズは、観客各々の家に、それとは異なる時空間を送り込む試みと言えるだろう。

『ハウスダストピア』は作・演出の本橋龍の戯曲集(『青年(ヤング)童話脚本集①②』)とともにウンゲツィーファのウェブショップで販売中。7月15日(水)からはウンゲツィーファの新作として吉祥寺シアターを舞台とした無観客の演劇公演/連ドラ演劇『一角の角(すみ)』が上演/配信予定だ。


公式サイト:https://ungeziefer.site/
ウェブショップ:https://unge.thebase.in/


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2020/07/07(火)(山﨑健太)

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