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五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

《天神山のアトリエ》《貝沢の家》《萩塚の長屋》

[群馬県]

高崎にて、藤野高志/生物建築舎のアトリエを訪問する。三度目だが、ものすごく植物や木が生長していて驚く。今回は彼の漫画による卒計のインタビューが目的である。やはり、図面や模型が一切なく、簡単な本を制作したという。内容は文明批評を伴う壮大な建築と自然の物語である。ほかに巨大な油絵、インスタレーションを燃やす行為もあったことを知る。なお、この漫画は事務所のHPで閲覧可能だ。続いて、藤野高志による実家のリノベーション、《貝沢の家》を見学した。長い時間をかけただけに、とんでもなくややこしく、複雑な、新築では絶対に生まれない空間の質を醸成していた。もとはごく普通の家なのだが、新しさと古さがシームレスにつながり、工事中/解体中にも見える建築に変身した。そして《萩塚の長屋》を再訪した。地方都市ゆえに、駐車場を2台分ずつ確保する集合住宅であり、中庭は視線が交わらないよう計算しながら、竹を植える。この一角に入る前衛的なガーデニング屋、ACID NATURE 乙庭が植栽を担当したという。藤野のアトリエも、こことのコラボレーションで植物を選定していたことが判明した。

写真:上=《天神山のアトリエ》 中=《貝沢の家》 下=《萩塚の長屋》

2017/10/27(金)(五十嵐太郎)

Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会 2017

会期:2017/10/20~2017/10/30

大阪駅・中央北口前 うめきたシップホール[大阪府]

今年のU35の展覧会の公募は、筆者が審査を担当した。悩んだ挙げ句、なるべく、違うタイプの作品を幅広くという方針で選んだ。その結果、社会的、リレーショナル・アーキテクチャー的、建築的、モノ的、アート的という布陣に加え、昨年からのシード組で2人が加わった展示となった。自分で選んだ5組については、ひとりを除いて、すべて実作を見学した。ゆえに、それで作品が面白かった齋藤隆太郎、三井嶺、千種成顕がゴールドメダル候補ではないかとあらかじめ考えていた(酒井亮憲は進行中の教会を出品していたら、有力な候補だった。前嶋章太郎は気持ちがよさそうな住宅だったが、着工前のプロジェクトなので外した)。シンポジウムでは、三井氏が本音を言ったことで、作品の意味がさらに明快になり、ゴールドメダルに決めた。看板建築に対するかなりユニークな補強のリノベーションであり、コンピュータによるデザインと歴史的な思考が複合しつつ、空間よりもあえてモノにこだわる姿勢が、実はとても未来的だった。彼は東大の藤井研(歴史)の出身だが、豊田啓介もそうらしい。

写真:上=齋藤隆太郎 中=三井嶺 下=千種成顕

2017/10/21(土)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ実行委員会有識者部会および運営会議

会期:2017/10/20

愛知芸術文化センター[愛知県]

あいちトリエンナーレの会議に出席する。芸術監督をつとめる津田大介が掲げるテーマ「情の時代 Taming Y/Our Passion」が発表された。タイトルは「じょう」とも「なさけ」とも読めて、強めの表現の英語タイトルは直訳というよりも、サブタイトルとして読める多義性をもったものである。また名古屋的な金と紫のカラーによるロゴも強烈だった。なお、プレゼンテーションでは、代表的な国際展のヴェネツィア・ビエンナーレをA=博覧会型、ドクメンタをB=テーマ型、ミュンスターをC=サイトスペシフィック型と分類しつつ、これまでのあいちトリエンナーレの2010年をA+C、2013年をB+C、2016年をA+Bと位置づけ、2019年はB+Cに近いタイプになることが説明された。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

ランス美術館展

会期:0017/10/07~2017/12/03

名古屋市美術館[愛知県]

1階は17世紀以降のフランスの美術史をたどる内容で、目玉はダヴィッドの「マラーの死」である。一方で2階は戦後、フランスに帰化した藤田嗣治のコレクションを紹介する。特に彼が壁画やステンドグラスを手がけ、建設したランスのフジタ礼拝堂に関する下絵などが充実していた。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

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長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー

会期:2017/10/06~2017/11/19

愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)[愛知県]

師匠の応挙と比較したり、無量寺のふすま絵による空間を再現する、工夫を凝らした内容だった。やはり、建築を意識して描かれた絵画は、インスタレーションによって、美術館でも空間の雰囲気を体験できるとありがたい。猫目の虎や犬など、かわいらしいキャラや漫画タッチの絵、大胆な余白や構図、デザイン的な構成、書道の延長のようなドリッピングやステイニング的な手法など、現代アートの視点から見てもなかなか面白い。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

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