artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
《神石高原町営小畠住宅》
[広島県]
土井一秀が手がけた《神石高原町営小畠住宅》は、平屋が直線二列で並ぶ町営住宅の老朽化に伴う建て替えである。その結果、雁行形による再配置で、各戸の視線をずらし、小さな集落のような空間のまとまりをつくる。全体の入口にある土を盛った部分も魅力的だ。各戸はすべて同じではなく、微妙にプランが違い、バリアフリー対応の室内を見学した。片流れ屋根は、天井高を上げることで、面積以上に広く感じる空間をもたらしつつ、外観にはキャラを与える。
2017/09/05(火)(五十嵐太郎)
《三次市民ホール きりり(KIRIRI)》
[広島県]
青木淳が設計した三次市民ホールを見学する。災害対策として、ピロティの上に施設全体が載っているが、下はすべて駐車場なので、郊外のファミレス型の空間構成とも言える。ただし、この建築にはいわゆる正面性がない。中庭や開口をあちこちに散りばめながら、ホールや楽屋も上部からの採光を可能とし、自然光を生かすのも、電源を喪失しても内部が明るさを維持することを想定しているからだ。なお、スタジオ群の上部空間は冗長性をもつ、リノベーション風のデザインであり、青木らしさが感じられる。
2017/09/04(月)(五十嵐太郎)
《ONOMICHI U2》
[広島県]
尾道の谷尻誠/SUPPOSEによる《ONOMICHI U2》を訪れる。外から見ると、ほとんど手を加えていないように見える倉庫だが、内部に入ると、カッコいい空間が展開する。水辺のデッキも気持ちがよい。立地を生かした、見事なリノベーションによる成功例である。またソフト面に注目すると、サイクリスト向けのホテルもユニークなプログラムだが、飲食店やショップのセンスがよく、これと比較すると、残念ながら横浜の赤煉瓦倉庫の商業空間がださく思えてしまう。
2017/09/04(月)(五十嵐太郎)
ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち
会期:2017/06/10~2017/10/15
名古屋ボストン美術館[愛知県]
フランス革命後、いかにパリジェンヌのモードが広がり、どのように展開し、また海を隔てたアメリカにも影響を与えたかを、アートでたどる企画だ。それにしても、頭の上に戦艦までのせるなど、18世紀末に流行した盛り盛りのヘアスタイルの図解には驚かされた。これは優雅というようなものではなく、ヤンキーバロックに近いデザインである。
2017/08/31(木)(五十嵐太郎)
建築Symposion──日独仏の若手建築家による──「かげろう集落~日独仏の建築家が提案する小さな公共空間群」
会期:2017/08/26~2017/09/03
京都芸術センター グラウンド[京都府]
監修として関わった京都芸術センターの「かげろう集落~日独仏の建築家が提案する小さな公共空間群」展がスタートした。これは日本、ドイツ、フランス、デンマークに拠点を置く6組の建築家がかつての校庭にパヴィリオン群をつくり、来場者にその使い方を自由に想像させる試みである。わずか9日間だけ出現する仮説の場だが、だからこそ可能な空間の実験を行ない、われわれにいかなる想像力を喚起させるかを問う。格子状のルーフ、中庭をおおうテープ、ユーモラスな丸太群、地上の切妻屋根、水をまく塔、穴あきパネルの遊び場、横断する廊下、そして音を出す悦楽の山車。ポエティックな建築の断片で構成された、はかない蜉蝣/陽炎の集落が、形態と機能の関係を切断する。オープニング・パーティでは、日射しが厳しくない夕方、人があちこちに散らばり居場所をみつける雰囲気がよい。地域のパフォーマーたちがパヴィリオン群を活用して演じたのだが、空間の可能性を引き出す手腕はお見事である。また子どもや地元のおじさんも自然とそこに混ざり、魅力的な場になっていた。
写真:左上=加藤比呂史《人々をこの場所を織りこむ、落書き》 左下=スヴェン・プファイファー《危ない遊び場》 右上から=ドットアーキテクツ《町屋の滑り屋根》、ルードヴィヒ・ハイムバッハ《形のない悦楽のフロート》、加藤比呂史《京雑草の庭》
2017/08/26(土)(五十嵐太郎)