artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
フェスティバル/トーキョー17「わたしが悲しくないのはあなたが遠いから」
会期:2017/10/07~2017/10/15
柴幸男「わたしが悲しくないのはあなたが遠いから」を東京芸術劇場のイーストとウエストで続けて観劇した。当事者ではない悲劇への距離を題材とし、たえず劇場の外/隣を想像させる刺激的な試みである。すなわち、舞台は大きな物語の一部でしかない。実際、時々左右の劇場をつないで両サイドの俳優が会話したり、旅行の場面などでは反対側の舞台に俳優が移動していた。先に見たせいもあるが、イーストの方が印象に残る。後でウエストを見ると、思っていたのとちょっと違っていた(イーストで見ることができなかったものが補完されるのかと想像していたため)。
2017/10/09(月)(五十嵐太郎)
震災・大事故と文化財を考えるプロジェクト シンポジウム「厄災の記憶 その表象可能性(はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト)」
いわき芸術文化交流館 アリオス 中劇場[福島県]
いわき芸術文化交流館アリオスの中劇場で開催した震災・大事故と文化財を考えるプロジェクト・シンポジウム「厄災の記憶 その表象可能性」に参加した。現代美術、美術史、広島の原爆、第五福竜丸の事故、民俗学、建築学など、各分野の学芸員や研究者ら、12人が円卓で討議している様子を、ぐるぐるまわりながら藤井光が撮影する。厄災の記憶と表象をめぐってさまざまな話題が語られ、あっという間の休憩なしの3時間だった。これは映像作品として編集され、来年パリで発表される予定らしい。
2017/10/05(火)(五十嵐太郎)
模型世界──探求するかたちの蒐集──
会期:2017/09/29~2017/10/13
東北大学トンチクギャラリー[宮城県]
東北大の五十嵐研による「模型世界」展がスタートした。昨年の「先史のかたち」展では縄文土器を渦状に並べたが、今回は模型をテーマに多分野のコレクションを借り、屏風を共通モチーフとしながら、それぞれの展示物にふさわしいオリジナルの什器を制作し、現代における驚異の部屋を演出した。今回、アーティスト枠としては、宮城大の建築家、中田千彦による連作の模型も参加している。各ジャンルの作品解説やコラムを収録した「模型世界」展のカタログでは、1冊の本なのだが、四種類のページの開き方がある特殊な製本に挑戦した。せんだいスクール・オブ・デザインで制作した「S-meme」の実験と同様、紙ならではの読書をデザインしたものだ。また日本電気硝子が協賛した見えないガラスを一部の什器で用いたが、本当に映り込みがなく、目の前にガラスがないかのような視覚体験に多くの来場者が驚いていた。
写真:上=会場風景 中=中田千彦の模型 下=見えないガラスを用いた展示
2017/09/30(土)(五十嵐太郎)
アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー
Bunkamura ル・シネマ[東京都]
字幕をチェックするために、一足早く、研究者、学芸員、コレクターの証言やコメントをもとに、アイリーン・グレイの生涯をたどるドキュメンタリー映画『Gray Matters』を見る。E.1027が共作でなく、彼女個人の作品という説も提出されるほか、ル・コルビュジエとの関係で知らなかった興味深い事実が多く、発見が多い。彼女の再評価において、ジョセフ・リクワートの功績も大きかった。先に公開されたアイリーンの映画『追憶のヴィラ』は、ル・コルビュジエとの関係や奇跡の住宅E.1027がメインであり、建築家として彼女を再評価するものだったが、この映画は家具やインテリアデザインの仕事に注目したことも特徴である。
2017/09/29(金)(五十嵐太郎)
窓学10周年記念 窓学展「窓から見える世界」オープニングトークイベント
会期:2017/09/28
スパイラルカフェ(スパイラル1F)[東京都]
窓学展のオープニング・トークの司会をつとめた。今回、窓の物語学で参加している原広司は、ラテン・アメリカの想像力の系譜をたどりつつ、レアンドロ・エルリッヒの登場から、シュルレアリスムを夜の夢(無意識)と白昼夢(論理的)に分ける視点を提出し、彼は後者だと論じる。レアンドロは、ヒッチコックの映画『裏窓』をモチーフにした初期の作品から、「窓と梯子」のシリーズまで、自作から窓関係のものを紹介した。なお、スパイラルの新作は、かつて青山にあったかもしれない近代の看板建築的なイメージを重ねている。2人とも、物語に影響されて作品を制作するというよりも、まさに物語と同様に建築やアートをつくっていることが興味深い。
2017/09/28(木)(五十嵐太郎)