artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
「Art in ART」展
会期:0017/04/28~2017/10/01
クラクフ現代美術館(MOCAK)[ポーランド、クラクフ]
クラコフの街を歩く。「シンドラーのリスト」で有名な工場があり、とてもモダンな外観である。これに隣接する鋸屋根の旧工場は、リノベーションによって、現代美術館になっていた。正直、ポーランドの地方都市なので、それほど展示はたいしたことがなかろうとなめていたら、とても面白い企画展を開催しており、クラクフの文化度の高さを思い知る。特に「Art in ART」展は、美術史を踏まえたメタ美術的な作品を集め、ポーランドの作家中心だけど(もちろん、シンディ・シャーマンや森村泰昌ほか、小川信治らもいるが)、笑いもありながら、こちらの知識も試される緊張感が続く。またホロコースト後の世界を描く、Jonasz Sternの企画展示も開催していた。
写真:左列=「ART in ART」展、右上から=クラクフ現代美術館(2枚)、「Landscape after the Holocaust」展、シンドラーの工場
2017/09/15(金)(五十嵐太郎)
《日本美術技術博物館 MANGGHAマンガ》
[ポーランド、クラクフ]
地元では「マンガ」と言えば伝わる、磯崎新設計の日本美術・技術博物館へ。上部は木の構造でうねる屋根をつくり、川を挟んで、ヴァヴェル城を望む。メインギャラリーの中央に斜行する畳の空間を設けるが、枯山水などよりも、こたつが子どもに大人気で微笑ましい。別棟では、写真家Wojciech Plewinskiの知られざる作品の企画展だったが、こちらのキュレーションは見事だった。
写真:1段目・2段目左=《日本美術技術博物館》内観、2段目右=こたつ、3段目=ヴァヴェル城をのぞむ(左)、外観(右)
2017/09/15(金)(五十嵐太郎)
ヴァヴェル城、聖ペテロ聖パウロ教会
[ポーランド、クラクフ]
ヴァヴェル城のエリアに登る。中世から近世にかけて、最新のデザインを取り込みながら、リノベーションを繰り返し、旧王宮や大聖堂では、複数の歴史の層がデザインに刻まれている。特に旧王宮は、古層が見える発掘現場の上をうねるスロープで歩く空間体験を提供する展示デザインが秀逸だった。大聖堂は正面や側面、あるいは内部もポコポコと異なる様式のパーツを付加し、てんこ盛りである。全体の統一感やバランスはないが、旺盛に最新のデザインを取り込みながら、重ね書きしてきたことがうかがえる。イルジェズ教会風の外観をもつ《聖ペテロ聖パウロ教会》は、わりと様式の統一感があり、イタリアの建築家の仕事らしい。中央広場の《聖マリア教会》はやはりバランスを考えず、正面にぽこっと入口を付加している。これは他の地域であまり見ない、ポーランドの好みの造形かもしれない。また《バルバカン》と《フロリアンスカ門》は、戦闘防御施設なのだが、かわいらしい。
写真:1段目=《ヴァヴェル城》、左列上から=《ヴァヴェル城》《旧王宮》《大聖堂》《聖ペテロ聖パウロ教会》 右列上から=《聖マリア教会》《バルバカン》《フロリアンスカ門》
2017/09/15(金)(五十嵐太郎)
Face to face: Art in Auschwitz
会期:2017/07/07~2017/11/19
クラコフ国立美術館[ポーランド、クラクフ]
クラコフの国立美術館分館にて、アウシュヴィッツ博物館の70周年記念として企画された「Face to face:アウシュヴィッツのアート」展を見る。てっきり戦後に描かれた作品かと思いきや、そうではなく、まさに強制収容所で制作された絵だけを紹介しており、極限状態のアートとして衝撃的な内容だった。最初の部屋は、ナチスが描かせた絵画(壁画や非公式に画才のあるユダヤ人に描かせ、家族や友人へのプレゼントに持ち帰ったとても「普通」の絵)、第二の部屋は、過酷な労働状況や虐待を描いた作品。第三の部屋は、ユダヤ人たちの肖像画(もちろん、隠れて描いた息抜きの作品)、そして最後は現実逃避として理想を描いた作品。とりわけ瓶の中にスケッチ群を隠し、1947年に発見されたやや漫画タッチの絵が(描いた人も不詳)、残虐な事態を鮮明に伝えており、鬼気迫るものがあった。それにしても、これだけ多くの絵が強制収容所で密かに描かれ、また残ったことから、言葉ではない、絵という視覚芸術の凄みを再認識した。
写真:左中=家族や友人へのプレゼントに持ち帰った絵、左下=壁画、右上=過酷な労働状況や虐待を描いた作品、右中=肖像画
2017/09/15(金)(五十嵐太郎)
アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館
[ポーランド、オシフィエンチム]
今回の重要な目的地であるアウシュヴィッツ博物館へ。クラクフからのバスががらがらで油断したら、すでに現地に大量の観光バスが並んでいた。また予約をちゃんとしていなかったのだが(時間ごとに人数制限がある)、英語ツアーの空きになんとか入れてもらい、無事に見ることができた。実際、アウシュヴィッツのエリアは小さいにもかかわらず、世界中から膨大な数の観光客が押し寄せるため、なるほど混み合う10時から16時はガイド形式でのみ見学可能にしないと、確実に現場はカオス状態になるだろう。ゆえに、途切れなく各国語のガイドツアーが数珠つなぎになって、各棟の部屋をまわり、狭い中廊下を団体がすれ違う。有名な頭髪のほか、靴、めがね、かばんなど、ユダヤ人が使っていた日用品をジャンル別に大量に並べて展示する形式は、いつ始まったのだろう。現代美術でもよく使うやり方だが、その不気味さの根源はここにあった。一方でアウシュヴィッツを見た後は、そうしたタイプのアート作品が皮相的に見えてしまうかもしれない。
写真:上3枚=ツアーで回るアウシュビッツ博物館、左下=犠牲者の靴、右下=薬品の缶
2017/09/14(木)(五十嵐太郎)