artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
山下洋輔トリオ復活祭
会期:2009/07/19
日比谷野外音楽堂[東京都]
山下洋輔のトリオ結成40周年を記念したライブ。ピアノの山下を縦軸に、ドラムの小山彰太、森山威男、テナーサックスの中村誠一、菊地成孔、アルトサックスの坂田明、林栄一、ベースの國仲勝男が、司会の相倉久人の進行のもと、入れ代わり立ち代わり登場する構成。彼らの協演に、大半が中高年で占められた観客は大いに盛り上がったが、なかでも突出して会場を沸かせたのが坂田明と森山威男。坂田はサックスの途中で突如として「ハナモゲラ語」による絶叫節を歌い上げ、観客一人ひとりの心底を鋭く突くほどの力強いドラムを見せた森山は、会場の気分が最高潮に達する直前、まさかのエアードラムを入れて、みんなを「あっ」といわせた。演者と観客が相互に向き合うことで場の空気を盛り上げていくという、フリージャズの醍醐味を「これでもか!」とばかりに実感させる、じつに幸福感に満ちたライブだった。
2009/07/19(日)(福住廉)
中井恒夫─東京 原爆─
会期:2009/07/13~2009/08/01
秋山画廊[東京都]
原爆をモチーフとした映像インスタレーション。東京の地図を床面に、爆発する原爆を壁面に、それぞれ投影することで、東京が被爆するイメージを見せた。ただ爆発の映像描写が凡庸であったせいか、あるいは「東京」という記号が弱かったせいか、原爆が東京で爆発するという衝撃が十分伝わっていないように思えた。原爆のイメージを取り扱うアーティストが忘れてはならないのは、わたしたちの想像力には、ハリウッド映画などによって世界が滅びるイメージが、すでに何重にも書き込まれてしまっているという大前提ではないだろうか。
2009/07/16(木)(福住廉)
梅津庸一「ゴールドデッサン」
会期:2009/07/11~2009/08/22
ARATANIURANO[東京都]
梅津庸一の個展。金属の先端による点描画などを発表した。モチーフは飛行機や人物など写真やネット上にある既存のイメージをもとにしており、しかもアトリエではなくファミレスで描かれたものだという。凡庸な日常性をこれでもかといわんばかりに突き詰めていくと、その向こう側が見えてくる、そんな方法論にもとづいているようだ。鉄道の切符の裏面を張り巡らせた作品は、無数の皺がくたびれた都市生活を物語るのと同時に、黒のさまざまなグラデーションがはっとするほど美しい。
2009/07/15(水)(福住廉)
wah「すみだ川のおもしろい」展
会期:2009/06/20~2009/07/20
すみだリバーサイドホール・ギャラリー、アサヒビール本部1階ロビー[東京都]
wahによるプロジェクトの報告展。隅田川で「こんなことがあったらいいのに」というアイデアを募り、300件のなかから「川の上でゴルフをする」「船にお風呂がある」「川分け師がいる」などを実現させた、その経緯をペーパーや映像などをとおして発表した。おもしろいのは、非現実的な思いつきをほんとうにやってしまう実行力に加えて、図書館で調べた資料をもとに、昔の人たちもほぼ同じようなことを考え、実行していたという史実を明らかにしていたところ。突飛なアイデアを実現させる活動は、ある一定の歴史的な系譜に位置づけられており、その正当性を根拠にすれば、こうした活動を持続させていくには便利なことこの上ない。逆にいえば、「アート」というほかない、超絶したおもしろさを実現するには、その系譜から抜け出さなければならないということだろう。
2009/07/15(水)(福住廉)
大友良英+青山泰知+伊藤隆之+YCAM Inter Lab+α「ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置」展
会期:2009/07/04~2009/08/09
VACANT[東京都]
大友良英らによる展覧会。およそ100台の古いポータブルレコードプレイヤーを並べた大規模なサウンドインスタレーション《without records》を発表した。さまざまな高さの台に置かれたポータブルプレイヤーが広い空間に林立し、その上にはランプが下がり、レコードの欠けたプレイヤーから発せられるノイズとは無関係に明滅する。インスタレーションとしての完成度に十分満足しつつも、機械の摩擦やサイレンを連想させる、いかにもノイズ的な音の質が旧態依然としているように思えてならない。ポータブルプレイヤーというレトロな再生装置をあえて利用しているように、懐古的な志向性をあえて狙っているのかもしれないが、すでに機械化された人間というモチーフが一般化している以上、その今後のありようを予見させる音の質こそ求められているように思う。「ノイズ」には回収しえない音は、ありえないのだろうか。
2009/07/11(土)(福住廉)