artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
もうひとつの小沢剛 展
会期:2009/07/21~2009/08/29
Ota Fine Arts[東京都]
美術家・小沢剛の回顧展。「地蔵建立」シリーズや「なすび画廊」など、おもに90年代の制作活動を振り返る展示だった。詳細に記録された年表が貼り出されていたように、90年代を歴史化する作業が待望される。
2009/08/28(金)(福住廉)
写楽 幻の肉筆画
会期:2009/07/04~2009/09/06
江戸東京博物館[東京都]
ギリシア人のグレゴリオ・マノスによるコレクションを紹介する展覧会。近年発見された写楽による肉筆扇面画をはじめ、浮世絵や絵画などおよそ120点あまりが展示された。狩野派による仏画、山水画、花鳥画はもとより、美人画や役者絵などを丁寧に見ていくと、江戸時代の熟成した町人文化のありように改めて感服せざるをえない。とりわけ、歌川国貞による大判錦絵《戻橋綱逢変化》(1804-18)は、北野天満宮の屋根の上で鬼と武将が対峙するシーンを描いたものだが、画面全体に流れる漆黒のうねりが、あたかも鬼のおどろおどろしい魔力を表わしているかのようで、抜群の迫力をもたらしている。これほどの絵を見てしまうと、マンガだろうとアートだろうと、「描写」という面では、もはや江戸時代に到達点を迎えてしまったのではないかと思わずにはいられない。
2009/08/28(金)(福住廉)
アーバン/グラフィティ・アート展
会期:2009/08/14~2009/08/25
Bunkamura Gallery[東京都]
UKのグラフィティ・アートを集めた展覧会。セックス・ピストルズのジャケットで知られるジェイミー・リードの《Union Jack God Save the Queen》をはじめ、バンクシーやニック・ウォーカーなどによるシルクスクリーン、およそ100点が展示された。ステンシルの導入以来、グラフィティはヴィジュアル・イメージの度合いが増すとともに、商業的な価値も高めていったが、同展に展示されたグラフィティ・アートはまさしく「アート」に比重を置いたグラフィティだった。逆にいえば、そこに「ストリート」の野蛮な香りを求めることがかなわないほど、今日のアーバンはアート化されているということなのだろう。
2009/08/25(火)(福住廉)
松田修「オオカミ 少年 ビデオ」
会期:2009/08/20~2009/09/19
無人島プロダクション[東京都]
今春、東京藝大の大学院を修了した新進気鋭のアーティスト、松田修の初個展。というと、いかにも小賢い理論派の美術家によるクールな作品を連想してしまいがちだけれど、松田の魅力はその対極にある。彼の作品は、何よりもまず、徹底的に下品である。その潔さが心地よい。といはえ、エロとグロと暗い笑いが渾然一体となった作風が、多くの鑑賞者の目を背けさせてしまいがちなのは事実だ。けれども、それらはたんにお下劣なネタを披露するだけのアートではなく、むしろ万人にとって興味があるエロをとおして、鑑賞者の無意識に働きかけるための戦術なのだ。中年サラリーマンの頭から抜け落ちた髪が鼻孔の鼻毛と通じ合うドローイングに見られるように、松田が掘り起こそうとしているのは、「私」と「もの」がそれぞれ異なりながらも、どこかで通底する次元だが、それは凡庸な日常生活の影に隠れているため、ほとんど知覚することはない。しかし、松田本人を被写体とした静止画像をつなぎあわせた断続的な映像を見ると、滑らかな時間性に穿たれた裂け目からその根源的な地平がありありと浮かび上がってくるのがわかる。「おれ」と「おまえ」が果てしなく循環する円環的な原型。その系譜を辿るとすれば、現代美術の伝統より、むしろギャグ漫画の帝王である赤塚不二夫にたどり着く。おしりから昆布が出てきて慌てふためくおっさんに、バカボンのパパは昆布の先端を結んで輪にしてしまい、「また食べなさい!! 口から食べるとおしりから出てくるのだ 出たらまた食べてまた出たら食べるのだ いつまで食べてもキリがないのだ!!」と喝破するが、松田修と赤塚不二夫はおそらく同じ地平を見通しているにちがいない(バカボンについては『文藝別冊 赤塚不二夫』の19頁を参照)。
2009/08/24(月)(福住廉)
白と黒(「武満徹の映画音楽」より)
会期:2009/08/19~2009/08/25
ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]
1963年制作、堀川弘通監督による社会派サスペンス映画。主演の小林桂樹のほか、仲代達矢、乙羽信子、大空真弓、淡島千景、井川比佐志、西村晃と東野英二郎(新旧水戸黄門の共演!)などがそれぞれ味わい深い演技を見せ、さらには松本清張や大宅壮一といった知識人もチョイ役で出演するなど、豪華絢爛な出演陣が観客を魅了する。おまけに、当時の社会風土を織り交ぜながら、物語を二転三転させる骨太の脚本が、いかにも渋い。2時間弱の映画であるにもかかわらず、ひじょうに密度の濃い時間を経験できた。企業とタイアップしたほとんど広告のような薄っぺらいモノガタリが横行する昨今、こうした硬派な物語にこそ、エンターテイメントの真髄があるにちがいない。
2009/08/24(月)(福住廉)