artscapeレビュー

福住廉のレビュー/プレビュー

彫刻 労働と不意打ち

会期:2009/08/08~2009/08/23

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

大竹利絵子、小俣英彦、今野健太、下川慎六、西尾康之、原真一、深谷直之、森靖の8名による彫刻展。タイトルにも示されているように、彫刻の制作を広い意味での「労働」としてとらえ、その過程で訪れる「不意打ち」を中心的なコンセプトとして展覧会が練り上げられているようだ。だが、「労働」が生産利益のために合目的に労働力を使用することを意味している以上、ほとんどの場合、生産利益を直接的に回収できる見込みがない彫刻の制作活動を安易に「労働」とみなすことはできないし、その制作過程から想定外の「不意打ち」が生まれるとしても、それがそのまま鑑賞者に到達するともかぎらない。報われる保証が一切ないまま、他者と共有可能な精神性を目指して、ただひたすら手を動かし続けること。ようするに、同展のタイトルは通俗的な「芸術」観を難解な言葉で言い換えたにすぎない。同じように、同展の出品作品は、通俗的な「彫刻」概念の範囲内に収まるものが多く、なかなか「不意打ち」を食らうことはできなかった。そうしたなか、「彫刻」らしからぬ作品で「不意打ち」という言葉に値する衝撃を辛うじて与えていたのは、陰刻鋳造による特異な量感を獲得する西尾康之の《Organ》(2006)と、新作の《復顔、粘土法》(2009)、そして地下鉄の通気口から吹き上がる風にスカートがあおられるマリリン・モンローの通俗的なイメージに、同じく通俗的な河童のそれを融合させた森靖の奇怪な木像作品《Much ado about love-Kappa》(2009)。とりわけ通俗性を二乗するような手法を披露した後者は、おそらく「彫刻」というジャンルの通俗性に自覚的であるという点で、今後の展開に注目したい。

2009/08/21(金)(福住廉)

前衛のみやぎ─昭和期芸術の変革に挑んだ表現者たち─

会期:2009/06/20~2009/08/16

宮城県美術館[宮城県]

戦後の宮城県にゆかりのある「前衛」の作家を振り返る展覧会。吉野辰海、升沢金平、針生鎮郎、菅野聖子、新国誠一など、15人による作品およそ150点が展示された。シュルレアリスムからダダ、抽象美術、象徴詩、身体パフォーマンスなど、前衛の現われ方がさまざまな形式に及んでいることが一望できる展示になっている。なかでも圧倒的だったのが、ダダカンこと糸井貫二。50年代の版画から貼絵、パフォーマンスを記録した写真など、これまで発表されることのなかったものも含めて、30点あまりが一挙に公開された。コーデュロイ生地の上にバッジやらアップリケやら花札やらを縫い合わせた《ダダカンベスト》は、いかにもキッチュな見た目とは裏腹に、山伏の衣裳のような凄みを感じさせる。息子とともに制作した貼絵は、色とりどりのビニールテープを切り貼りして魚などを描いた単純な作品だが、よく見てみると、一本のテープで一切のたるみもなく滑らかな曲線を描くなど、思いのほか丁寧に仕上げられている。これらの作品は、今後のダダカン研究にとって貴重な礎となるにちがいない。惜しむらくは、これほど密度の濃い展示でありながら、図録が作成されていないこと。「宮城の前衛史」を読める日を心して待ちたい。

2009/08/15(土)(福住廉)

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他人の顔

会期:2009/08/12~2009/08/18

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

1966年制作の勅使河原宏監督作品。「武満徹の映画音楽」というイベントで上映されたように、音楽は武満徹、原作・脚本が安部公房、美術に磯崎新と山崎正夫。しかも平幹二郎演じる精神科医の病院内には、三木富雄の「耳」が設置されている。顔面に大火傷を負った男が他人の顔の「仮面」を手に入れることで妻の愛を取り戻そうとする物語に一貫しているのは、身体のパーツにたいする偏執的な視線。アイデンティティと結びついた顔はもちろん、水槽に沈められる手首の模造、岸田今日子のつりあがった口角、京マチコのなまめかしい脚、右顔を隠した入江美樹の左顔、そして仲代達矢の恐ろしいほど澄んだ黒い眼! こうした分析的な視線が次第にエスカレートしていき、虚飾や建前、化粧といった「表面」を切り裂き、その下に隠されているどろどろした「内面」をゆっくりとえぐりだしていくサディスティックなプロセスこそ、この映画の醍醐味である。

2009/08/13(木)(福住廉)

荒木経惟 POLART6000

会期:2009/07/17~2009/08/20

RAT HOLE GALLERY[東京都]

写真家・荒木経惟の個展。およそ6000枚のポラロイドを一挙に発表した。ヌードはもちろん、著名人のオフショット、花画、縦に割った温泉卵や輪切りにしたタラコなど、あらゆる方向から人間のエロスを丸ごととらえようとする貪欲な視線が、写真の画面はおろか、ポラロイドの量によっても表現されていた。ほぼ同時期に表参道ヒルズで篠山紀信の個展が催されていたが、こちらはむしろ点数を抑え、あくまでも美的に、つまりアートフルに撮影しており、荒木と好対照だった。

2009/08/13(木)(福住廉)

CINDY SHERMAN at COMME des GARCONS AOYAMA

会期:2009/07/08

COMME des GARCONS AOYAMA[東京都]

コム・デ・ギャルソン青山店の店内に、いまシンディ・シャーマンの巨大な写真作品が展示されている。例によって奇怪なセルフ・ポートレイトだが、何よりも店内の空間を占有するほどの大きさに圧倒される。いつまで展示しているかは定かではないけれど、同店店内には東恩納裕一の蛍光灯によるシャンデリアも常設されているので、一見の価値あり。

2009/08/13(木)(福住廉)