artscapeレビュー

『今日の建築』(Vol.001)

2009年03月15日号

発行所:NAP建築設計事務所

発行日:2008年1月7日

中村拓志主宰のNAP建築設計事務所が発行するフリーペーパーNAP Timesの第二号として発刊。この号よりタイトルを「今日の建築」として、中村が建築家に連続インタビューをするという。Vol.001では、アトリエ・ワンの塚本由晴氏に「建築と社会」をテーマにロングインタビュー。現在、都内複数の書店などで手に入るほか、NAPのホームページからPDF版をダウンロードできる。二人のトーク自体、相当に面白いし、この手のフリーペーパーのなかで、デザインが群を抜いてよい。ところで、個人的には塚本と中村が「ふるまい」というキーワードで意見の大部分を共有している点が非常に興味深かった。生物の生態が「ふるまい」であり、塚本はそこから建物の「ふるまい」を考える。塚本は、「ふるまい」が面白いのは、生物の個体差を超えていく点だと指摘し、「繰り返し」や「反復」を前提にして「ふるまい」が生まれると語る。さらに塚本は、日本の変化し続ける住宅地から、変化してもその加速度は一定かもしれないという「動的なコンテクスト」を読み取り、そのなかにおける建築の可能性が示唆される。メタボリズムは、変化するコンテクストの状況に合わせて建物を新陳代謝させるため、つねにコンテクストの変化に対して遅れをとってしまう。しかし塚本のいう「動的コンテクスト」をふまえた建築というものは、コンテクストの時間的変化を先取りしているがゆえに、これまでの建築とは違うものになる可能性が語られる。塚本の射程は、個別の住宅の設計が、個別でありながらも都市的な風景を形作るような枠組みをつくることにも至っている。このような話はインタビューの一部に過ぎず、2万字に及ぶインタビューのなかに、いくつもの興味深いテーマを読み取ることが出来るだろう。今後の中村によるロングインタビューの展開も楽しみである。

2009/01/07(水)(松田達)

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