artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

中西學 展 Brightness─multiple galaxy

会期:2013/01/28~2013/02/02

番画廊[大阪府]

中西が近年精力的に取り組んでいる《Luminous Flux》シリーズの新作10点を出品。同シリーズは、和紙にアクリル絵具でマーブリングを施し、表面を透明ポリエステル樹脂でコーティングした抽象的な平面作品だ。光学的な明るさ、精神の高揚、天体の運行などを意識した表現であり、人間が追求してやまない普遍的・根源的なビジョンを彼なりの美意識で具現化したものと言える。技術の向上とともに作品サイズも大型化し、本展ではF150号の大作を出品するに至った。これが滅法よい出来栄えで、同シリーズもいよいよ円熟期を迎えたのではなかろうか。中西は今年で創作活動30周年を迎えるが、まずは上々のスタートと言っていいだろう。

2013/01/28(月)(小吹隆文)

POTTO展

会期:2014/01/12~2014/01/27

gallery110[京都府]

顔や会話のようなものなどをテーマに、岡山からコレクションを発表するデザイナー山本哲也によるブランド「POTTO」。その2009年のコレクション「絵になる服」が展示されていた。その名のとおり、絵を着ることができる(着ないときは絵になっている)もの。地上絵がモチーフになっていたり、魚とかライオンとか、プリミティブな造形の美しさにうっとり。そもそもファションブランドの過去のコレクションを再び展示として紹介するという試みが珍しいのではないか。ファッションの展示も美術館では増えているというものの、それ以外ではそもそも珍しいものであるし(そういえばショー以外のファッションを発表する場ってどこだろう)、流行という現象にもっとも縛られるはずのファッションにおいて、良い物を良い、と紹介する企画者の意図、そして、ファッションを考える場としての同ギャラリーの意義を感じた。




展示風景

2013/01/27(月)(松永大地)

アーツチャレンジ2013

会期:2013/01/22~2013/02/03

愛知芸術文化センター[愛知県]

愛知芸文センターにて、アーツチャレンジ2013を見る。今年は少し作品の数が減り、地下の吹抜けも展示場所として使われていないので、全体としてややこじんまりとした印象を受ける。とはいえ、やはり若手発掘のプロジェクトは重要なものであり、いまにして思えば、先行して始まったアーツチャレンジもあいちトリエンナーレへの小さなステップだったと思う。さて、今回の展示では、住宅情報を暴力的に再編集したユートピアを提示する伊奈章之、昭和のノスタルジーを喚起する屋台と本人自身を展示する菅沼朋香、そして壁紙と絵画が不思議な関係をつむぐ鈴木紗也香が印象に残った。また前回のあいちトリエンナーレに参加した戸井田雄も、屋外階段脇のスペースで土を掘る映像を出品している。

2013/01/27(日)(五十嵐太郎)

答島惣太「TIME 8 closed circle──クローズド・サークル」

会期:2013/01/22~2013/01/27

KUNST ARTZ[京都府]

ギャラリー入口のドアを開けると一瞬戸惑う。一見何も展示されていない空間なのだ。実際、展覧会の会期中ではないのだと思ったのだろう、入口できびすを返して帰ってしまった来場者もあったと聞いたのだが、じつはこの展覧会は、奥のサブルームに展示された8枚のサンドペーパーの「絵画」を手がかりに、それらで削られた痕跡をメインルームの壁面や床から探し出すというサイトスペシフィック作品。会場では作家がヤスリをかけたときの作業中の音も再生されていた。紙ヤスリに残る摩耗の状態や色の跡から削られた場所のすべてを見つけるのには苦戦してしまったが、見る側の意表を突くユニークな表現と鋭いセンスが光る個展だった。1988年生まれで、現在、京都造形芸術大学大学院に在籍中という答島惣太。今後の活躍が楽しみだ。

2013/01/27(日)(酒井千穂)

船田玉樹 展

会期:2013/01/21~2013/02/20

広島県立美術館[広島県]

日本画のアヴァンギャルド、船田玉樹の本格的な回顧展。広島に生まれ、速水御舟と小林古径に学び、やがて日本画をもとにしながら前衛的な表現を追及していく画業の全貌に、およそ230点の作品から迫った。
玉樹が盛んに描いていたのは、主に花や樹木などの植物。しかしそれは、いわゆる花鳥風月を描く日本画とは大きく異なっている。代表作のひとつである《花の夕》は、艶やかな紅色で咲き乱れる桃の花を描いた屏風絵だが、一つひとつの花弁をぼってりとした絵具の塊で表現しているため、花の色とかたちが現実的にはありえないほどの強度で見る者に迫ってくる。《枝垂れ桜》にしても、クローズアップでとらえた桜の枝と花のなかに見る者を巻き込むかのような迫力が感じられる。玉樹が描いたのは、花鳥風月のように安全に鑑賞することを許す美しさではなく、見る者を力づくで圧倒する美しさだった。
玉樹の画才が最も凝縮しているのは、《松》である。鬱蒼とした松林が、巨大な画面からあふれるほどに描かれている。不穏な空気感に息が詰まるような気がしてならない。しかも下から見上げる構図だから、まるで暗い松林に迷い込んでしまったような焦燥感すら覚える。植物を描いただけの一枚の絵から、これほど感情の振幅を経験することは、かつてなかった。
とはいえ改めて振り返ってみると、そもそも植物や自然は人間にとって最も遠い他者であるから、それらをまっとうに描こうとするのであれば、必ずしも人間にとって心地よい美しさだけが描写の対象となるとはかぎらない。むしろ、恐怖や不安、ないしはそれらに由来する高揚感を実感させてはじめて、植物や自然を描写したと言えるのだろう。玉樹は崇高の画家なのかもしれない。

2013/01/26(土)(福住廉)

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