artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ヴァルラーフ・リヒャルツ博物館

会期:2012/08/31~2012/12/30
[ドイツ、ケルン]
ヴァルラーフ・リヒャルツ博物館の外観は、一見ただの四角い箱形の建物だけのように思われるが、展示物の性格から各階のプランが異なり(例えば、中世のフロアは十字型を強調)、また都市を望む開口を絶妙の位置に設けた大人の建築である。都市の文脈を読むウンガースが設計したもの。コレクションは中世から近代まで抱えるが、とくに中世の展示セクションがおもしろい。3Dの先駆など、作品の解説がなかなかしゃれている。
写真:上=展示室、下=外観
2012/12/11(火)(五十嵐太郎)
虹の彼方──こことどこかをつなぐ、アーティストたちとの遊飛行

会期:2012/11/23~2013/02/24
府中市美術館[東京都]
今日は多磨霊園に墓参り。地図を見ると府中市美はすぐ近くなので寄ってみる。今回は芸術と日常の接点を探る企画展のようだ。出品作家は伊庭靖子、小木曽瑞枝、斎藤ちさと、塩見允枝子ら9人で、印象に残ったのは三田村光土里とmamoruの作品。三田村は、展示室にカメラ、タイプライター、レコード、フィギュア、本、地図、はかり、椅子、格言のような言葉などの日常品を持ち込み、そこに毛糸を絡めている。毛糸の端には「ART」「AND」「BREAKFAST」と描かれたジグソーパズルのピースがぶら下がり、もう一方の端にはカギが吊るされている。これはここ数年、三田村が世界各地で展開して来た「アート&ブレックファスト」というプロジェクトで、観客とともに朝食をとりながら語り合い、少しずつインスタレーションを築き上げていくというもの。この一部屋にさまざまな文化が共存し、糸で結ばれているわけだ。一方mamoruはインタラクティブなサウンドインスタレーション、訳せば双方向的な音の装置。ひとつは、テーブルの上に透明のガラス瓶を20個ほど置き、天井から釣り糸を垂らしている。観客がかたわらに置かれた冷蔵庫から氷を取り出して釣り糸に掛け、しばらく待つと氷が溶けて水滴がガラス瓶のなかに落ちていく仕組み。その音を静かに聞くという作品なのだ。もうひとつは、テーブルの上に大きさの異なる空のペットボトルを数十本並べ、その横に扇風機を置いている。観客がスイッチを入れると扇風機の風がペットボトルの口をなで、わずかな音をたてる。その上のほうには数十本のアルミのハンガーが掛けられ、そこにも扇風機の風があたり、シャララとわずかに音をたてる。なんと繊細な。
2012/12/09(日)(村田真)
門田訓和 before that

会期:2012/12/08~2012/12/24
ARTZONE[京都府]
32色の折り紙を、決まった折り方、並べ方で多重露光した写真作品《coloe paper》を中心に、同様の手法で制作したモノクロの作品や映像作品を出品。透過性のある色面が幾重にも折り重なった画面は純粋に美しく、同時に行為と時間の積層が目に見える形で刻印されている。この軽やかさ、透明感を他の方法で表現するのは難しいだろう。昨年春に大学院を修了したばかりの若手とは思えない、完成度の高い個展だった。
2012/12/08(土)(小吹隆文)
北井一夫「いつか見た風景」

会期:2012/11/24~2013/01/27
東京都写真美術館 3階展示室[東京都]
北井一夫の写真家としての位置づけはむずかしい。1976年に「村へ」で第一回木村伊兵衛写真賞を受賞しているのだから、若くしてその業績は高く評価されていたといえるだろう。だが『アサヒカメラ』に1974~77年の足掛け4年にわたって連載された、その「村へ」のシリーズにしても、いま見直してみるとなんとも落着きの悪い写真群だ。高度経済成長の波に洗われて、崩壊しつつあった日本各地の村落共同体のありようを、丹念に写し込んでいった作品といえるだろうが、北井が何を探し求めて辺境の地域を渡り歩いているのか、そのあたりが判然としないのだ。とはいえ、これらの写真を見続けていると、たしかにこのような風景をその時代に見ていたという、動かしようのない既視感に強くとらわれてしまう。それは怒りとも哀しみともつかない、身動きができないような痛切な感情に包み込まれるということでもある。
北井の写真には、いつでもこのような、見る者をうまく制御できない記憶の陥穽に導くような力が備わっていると思う。僕にとって、今回の展覧会でそれを一番強く感じたのは、「過激派・バリケード」(1965~68)のパートに展示されていたバリケード封鎖された日本大学芸術学部内で撮影された一連の「静物写真」だった。闘争が長引くに連れて、「封鎖の校舎内は、ストライキ学生の衣食住の場所になり、非日常空間から日常生活の場へと変化した」という。北井はそこで目にした「靴」「ハンガー」「トイレットペーパー」「傘」「謄写版」「洗面台」などを、135ミリの望遠レンズで接写している。僕自身は彼より一世代若いので、これらの事物をバリケード内で直接目にしたわけではないが、その空気感をぎりぎり実感することはできる。日常を、その厚みごと剥がしとるような北井の眼差しのあり方が、これらの写真には見事に表われている。それぞれの時代の日常性を身体化して体現できる仕掛けを組み込んでいることこそ、北井の写真の動かしようがないリアリティの秘密なのではないだろうか。
2012/12/07(金)(飯沢耕太郎)
国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝

会期:2012/10/03~2012/12/23
国立新美術館[東京都]
国立新美術館の「リヒテンシュタイン 華麗なる伯爵家の秘宝」展を見る。有名な画家ルーベンスの作品群はあるが、この展覧会は絵画より、むしろ当時絵と一緒に部屋を飾っていたであろう同時代の家具や工芸品も展示していることがよいと思った。美術館では、絵だけが切り離されて持ち込まれ、純粋芸術とされがちだが、現場では渾然としているからだ。とくに近世以前の作品は、場所が交換可能なホワイトキューブの抽象絵画とは違う。
2012/12/07(金)(五十嵐太郎)


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