artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

渡辺好明遺作展「光ではかられた時」

会期:2012/12/07~2012/12/24

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

渡辺さんはぼくと同世代だけど名前を知ったのはそんなに昔のことではなく、20年ほど前に野外で階段状に並べたロウソクに火を灯したインスタレーションの写真を見たときだ。そのとき思ったのは「いい作家だなあ、でもなんでいままで知らなかったんだろう」ということだった。なぜ彼を知らなかったかといえば、彼が藝大の院を出てからも助手を務め、ドイツに留学後も藝大一筋というアカデミシャンだったからだろう。アーティストより教育者、大学人としての立場を優先していたように思う。それは99年に取手に先端芸術表現科が立ち上がり、毎週顔を合わせるようになって強く感じたことだ。先端にはセンセーが何人もいたが、取手アートプロジェクトをはじめとする雑事を一身に背負っていた印象があり、作品制作の時間など満足にとれなかったはず。結局遺された作品は、燃え尽きたらなくなるロウソクの作品ばかり。それが渡辺さんらしいといえばらしいけど。

2012/12/19(水)(村田真)

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「ヨコハマトリエンナーレ2014」第1回記者会見

会期:2012/12/18

横浜美術館円形フォーラム[神奈川県]

「ヨコハマトリエンナーレ2014」のアーティスティック・ディレクターに、アーティストの森村泰昌が就任した。同じく2014年開催予定の「札幌国際芸術祭」のゲストディレクターには坂本龍一が就任。「横浜トリエンナーレ2005」ディレクターの川俣正を嚆矢として、最近どうやら美術館学芸員やキュレーターに代わって、アーティストが国際展のディレクター職に就くのが流行になっているようだ。理由はおそらく、実力と知名度を兼ね備えたキュレーターが底をついたというのもあるだろうが、森村自身も語るようにアーティストは国際展についてあまり知らないので「真っ白な状態からスタートできる」からという理由も大きいだろう。つまり前例や常識にとらわれない斬新な発想による展覧会が可能であり、増え続ける国際展において差別化が図れるということだ。でもうまくいけばいいけど、前例や常識にとらわれない発想は現場に混乱を招きかねないからな。ともあれ成功を祈る。ほかに決まったことは、会場が横浜美術館と新港ピアの2カ所に落ち着いたこと、事業名は「横浜トリエンナーレ」、展覧会名が「ヨコハマトリエンナーレ」になったことなど。決まってないのは展覧会の方向性とテーマで、これが決まらなければ出品作家も選べない。

2012/12/18(火)(村田真)

はじまりは国芳──江戸スピリットのゆくえ

会期:2012/11/03~2013/01/14

横浜美術館[神奈川県]

幕末を生きた浮世絵師、歌川国芳の展覧会。だと思って見ていくとそれだけでなく、国芳の門下生や月岡芳年、河鍋暁斎といった維新後の浮世絵まで紹介されている。と思ったらそれだけでなく、大正時代の鏑木清方による肖像画まである。ずいぶん範囲が広いなあと思ったらそれだけでなく、五姓田芳柳・義松ら五姓田一派による洋風表現や油絵まであって、いったいどこまで風呂敷を広げるのかと思ったら、最後は伊東深水、川瀬巴水、ポール・ジャクレーらによる昭和初期までのモダンな人物画や風景画まで並んでいるのだった。たしかにタイトルどおり国芳に始まる「江戸スピリットのゆくえ」を追ったのかもしれないが、裾野の広がりを眺望できてお得感がある反面、ちょっと広げすぎて焦点がボケてしまった感もある。

2012/12/18(火)(村田真)

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カタログ&ブックス│2012年12月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

文化からの復興──市民と震災といわきアリオスと

著者:ニッセイ基礎研究所・いわき芸術文化交流館アリオス
発行日:2012年7月7日
発行所:水曜社
定価:1,890円(税込)
サイズ:210×150mm、274頁

福島第一原発から約40キロに立地する「いわき芸術文化交流館アリオス」では市民と一体となって文化による復興にチャレンジしている。
本書は震災直後の緊迫した状況を現場の声から振り返り、アリオスと地域のユニークな取り組みや東北3県の主要文化施設のキーパーソンらとの座談会、そして文化からの復興の意味を考える。震災後の未来を「文化の力」「アートの力」から展望し、公共文化施設と芸術文化の持つ可能性と、その役割について多方面から考察した本書は、地方行政関係者、指定管理者、市民団体やアーティストを始めとして、震災復興まちづくりに携わる全ての人、必読の1冊である。
水曜社サイトより]



photographers' gallery press no. 11

発行日:2012年11月15日
発行所:photographers' gallery
定価:2,490円(税込)
サイズ:257×182mm、328頁

2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故以来、被災状況などを記録した数多くの写真が撮影されています。災害を記録するとはどういうことか、この度の震災は写真というメディアに多くの問いを投げかけています。
本誌では、関東大震災直後の鉄道、圧倒的な規模の土砂災害、近代最大級のトンネル工事を記録した、3つの写真帖を約200頁にわたって収録し、伊藤俊治氏・平倉圭氏の書き下ろし原稿とともに、災害表象をこれまでにないかたちで捉え直します。また気鋭の執筆陣を迎え、これからの写真や美術、批評のあり方を導くような濃密な論考・対談を掲載いたします。
photographers' gallery サイトより]



超域文化科学紀要 第17号─2012

発行日:2012年11月30日
発行所:東京大学大学院総合文化研究科 超域文化科学専攻
サイズ:255×162mm 308頁

超域文化科学専攻所属教員と学生による研究論文集。比較文学比較文化、表象文化論、文化人類学という3つのコースが、それぞれのアプローチの特徴を生かし、様々な文化的・社会的現象を分析する場である。掲載される論文は、本専攻所属の教員による厳格な審査を経ている。
東京大学大学院総合文化研究科サイトより]



前田敦子はキリストを超えた──〈宗教〉としてのAKB48

著者:濱野智史
発行日:2012年12月10日
発行所:筑摩書房
定価:777円(税込)
サイズ:172×106mm 208頁

AKB48の魅力とは何か?なぜ前田敦子はセンターだったのか?
〈不動のセンター〉と呼ばれた前田敦子の分析から、AKB48が熱狂的に支持される理由を読み解いていく。なぜファンは彼女たちを推すのか、なぜアンチは彼女たちを憎むのか、いかにして彼女たちの利他性は育まれるのか……。握手会・総選挙・劇場公演・じゃんけん大会といったAKB48特有のシステムを読み解くことから、その魅力と社会的な意義を明らかにする。
圧倒的情熱で説かれる、AKB48の真実に震撼せよ!
筑摩書房サイトより]

2012/12/17(月)(artscape編集部)

ス・ドホ│パーフェクト・ホーム

会期:2012/11/23~2013/03/17

金沢21世紀美術館[石川県]

金沢21世紀美術館で開催されていたス・ドホの「パーフェクト・ホーム」展を見る。繊細なファブリックを用いて、既存の建築/空間のヴォリュームを再現することで知られる韓国のアーティストである。今回は宿泊できるモバイル建築の試み、建物の隙間に家が挟まった屋外インスタレーション、家が家に衝突して破壊されたような風景や模型(このタイミングだと、日本では津波の被害を想起させるが)などを紹介していた。

2012/12/16(日)(五十嵐太郎)

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