artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
「ルーベンス──栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展 記者発表会

会期:2012/12/03
ベルギー王国大使館[東京都]
最近、大がかりな海外美術展はその国の大使館で記者発表を行なう例が増えてきた。スペイン大使館での「ゴヤ展」や「エル・グレコ展」、フランス大使館での「ルーヴル美術館展」、イタリア大使館での「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」や「ラファエロ展」などだ。今回の「ルーベンス展」は初訪問となる麹町のベルギー大使館。と書いてきて、みんなカトリック国であることに気づいた。偶然か? しかしアメリカやオランダやロシアもずいぶん展覧会を開いてるのに、大使館で記者発表したなんて聞いたことないぞ。単にぼくが招かれてないだけかもしれないが。記者発表にはなぜか先日「ラファエロ展」の会見でホスト役を務めたばかりのイタリア大使も臨席していた。2013年がイタリア年ということもあるが、ドイツに生まれフランドルで育ったルーベンスは、イタリアで修業し画家としての一歩を踏み出したからね。その後も彼は、画家としてだけでなく外交官としてスペイン、フランス、イギリスなどヨーロッパ各国を飛びまわり、元祖「ひとりEU」を演じたのだ。そのせいでもないだろうが、2013年はルーヴル美術館でも「ルーベンス展」を計画中という。日本展は3月9日から渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて。
2012/12/03(月)(村田真)
勝田徳朗──タマゴから…生える

会期:2012/11/16~2012/12/05
ギャラリー睦[千葉県]
千葉市美からは少し離れているが、千葉駅からは徒歩10分ほど。住宅街に立つ民家の1階を改造したギャラリーだ。なんでそんなところまで行ったのかっていうと、勝田が美大の同窓生だったからだ。だから友達ネタです。勝田は学生時代は理論家で鳴らしたが、卒業後は高校の美術教師をやりながら時々画廊を借りて個展を開いてきた。以来35年、アーティストとして一線で活躍しているわけではないので、アートシーンに一石を投じるような作品を発表することはないが、一生活者として身近なモチーフ(タマゴ)を身近な素材(流木)を使って無理のない範囲で制作し続けている。作品形態は絵画、彫刻、インスタレーションとさまざまだが、モチーフはすべてタマゴ。いまさらアーティストとして自立しようなどとは考えてもいないだろうが、小品は何点か売れている。もっとも感心したのは、ぼくがいた20~30分ほどのあいだに、けっして便利な場所ではないのに何人もの客がひっきりなしに訪れていたこと。ぼくも含めて、彼らの多くは作品を見に来たというより本人に会いに来たんだろう。彼の人柄も大きいが、こういう美術の使い方もあるんだと再認識。というより、それが美術の使い道の大半であり、そっちのほうが健全なあり方なのかもしれない。
2012/12/02(日)(村田真)
須田悦弘 展

会期:2012/10/30~2012/12/16
千葉市美術館[千葉県]
花の彫刻で知られる須田の個展。彼の作品のおもしろさは、極薄の葉っぱや花びらを虫食い穴までそっくり再現する繊細なリアリズムにあるが、それだけならちょっと腕の立つ職人でもできる。彼にとってより重要なのは、それをどこに置くか、どのように見せるかにあるだろう。彫刻そのものは小さく繊細なため、美術館のような大空間に展示するときには、目立たせると同時に作品に触れさせないようにもしなければならず、そのふたつの相反する条件を満足させるための仕掛け(インスタレーション)が必要になる。そこが最大の見せどころだ。最初の展示室にはいくつかの小屋を設け、そのなかで見せていたが、少し慣れてきたころに壁に直接飾り、最後の展示室はとうとう空っぽ。と思ったら、よく見ると床板のあいだや陳列ケースの隅っこなどにひっそりと草花を咲かせていることに気づくという、心憎い演出だ。したがって観客は作品を鑑賞する前に作品のありかを探索しなければならず、それを楽しむのが須田作品に近づく第一歩となる。その下の階では「須田悦弘による江戸の美」と題し、須田自身が千葉市美のコレクションから選んだ浮世絵などを展示しているが、ここにもちゃっかり須田の作品が陳列ケース内に乱入している。思わず笑ったのが、数粒の米。木でできたコメ。じつは須田の彫刻のいちばんのおもしろさは、植物を植物素材で彫るというトートロジカルなしぐさにあると思う。比べるとしたら、木で石と台座を彫った橋本平八の《石に就いて》か。
2012/12/02(日)(村田真)
山口晃・襖絵奉納記念「重要文化財養林庵書院」特別公開

会期:2012/11/03~2012/12/02
平等院養林庵書院[京都府]
通常は非公開の平等院養林庵書院へ。山口晃の襖絵の奉納にあたり、土曜と日曜のみ特別公開されていた。襖絵は、来迎図のスタイルで、蒸気機関車に乗って極楽浄土に向かう人々(死者)の情景が描かれたもの。三両編成の車両の乗り込み口には上品・中品・下品の文字が記されており、それに乗り込む人々の様子や、機関車に乗れず徒歩で向かっている人の姿も描かれていた。機関車の向かう先には京都タワーと京都駅。ユーモアの細やかさも構図の面白さもさすが!と思わされる作品。隣室に続く襖には平等院の藤棚に見立てて「南無阿弥陀仏」の文字が書き連ねられた襖絵が。この襖を開けたときに射し込む光は、浄土へ向かう人々を導く「白道」(浄土宗などで、極楽浄土に通じる白い道とされるもの)に見立てられているのだそう。襖絵もだが空間の構成も凄い。見ることができてよかった。
2012/12/02(日)(酒井千穂)
平等院養林庵書院 襖絵奉納記念:山口晃「山口晃と申します──老若男女ご覧あれ」

会期:2012/11/02~2012/12/02
ジェイアール京都伊勢丹7F 美術館「えき」KYOTO[京都府]
宇治の平等院に山口晃が描いた襖絵が奉納されることになった。今展は平等院養林庵書院襖絵の一般公開に併せて開催された展覧会。
ドローイング、油絵、立体、挿画などが一堂に公開された。私が訪れたときも会場は多くの来場者で賑わっていたのだが、お年寄りの姿が意外にも多く、その幅広い人気を思い知った。過去、現在、未来の入り混じる作品世界の愉快な発想と画力もさることながら、妄想とも言える(?)その空想力にも改めて感心した。個人的にこの会場の展示で気に入ったのが、“電柱の美”を「考現学」のスケッチのように数々描き、リポートした《柱華道》という一連の作品。描かれているのは架空の電柱で、たいへんバカバカしいのだが装飾やその意味などまで詳細に記されていたそれらにはリアルな説得力もあり、つい笑ってしまった。
2012/12/02(日)(酒井千穂)


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