artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
上村亮太 展「星影ノーマライズ」

会期:2012/12/15~2012/12/25
Gallery Shimada deux[兵庫県]
ATATAKAのワークショップ会場をあとにして足を運んだ上村涼太の新作展。平面作品をはじめ、陶芸作品、模様を描いたカバンなどの布製品も展示されていた。《日月コンツェルン》《緑色の屋根》といったタイトルと描かれた空想的な世界がストーリーの想像を掻き立ていく一連の絵画作品、そして木製の絵の具箱に歪な陶のオブジェが詰まった《絵具箱の星》という作品にも惹かれた。それは会場の奥にそっと置かれるように展示されていたのだが、絵の具箱はかつて作家が実際に使っていたものだと聞いた。落下隕石の欠片を集めて収めたよう。今展全体のイメージと作家の生き様というドラマが結びついて、タイトルの「星影ノーマライズ」が味わい深い響きに思えた。時間をかけてじっくりと鑑賞できたのが嬉しい。

左=会場風景
右=展示作品《絵の具箱の星》
2012/12/16(日)(酒井千穂)
Design Work Shop -ATATAKA- #4
会期:2012/12/16
音(won)元町店 3Fギャラリー[兵庫県]
アパレル、ジュエリー、グラフィックデザインなど、普段はそれぞれの分野でプロとして活動している人たちがチームを結成し、継続して開催しているワークショップイベントがあると友人のアーティストから聞き連れて行ってもらった。会場は神戸、子供服の店舗の入ったビルの3階の空間。今回は4回目の開催で、この日はレザーや真鍮を加工し小物を制作するものや、ソックスにステンシルや割り箸などで柄や絵を描くワークショップなどがそれぞれ設置されたブースで行なわれていた。大人、子どもを問わず参加可能であったこれらの制作、参加費はどれも実費のみ。表現することと普段の生活の緊密な関係をデザインという切り口から提案したいというこの企画。運営しているメインスタッフはみな神戸芸術工科大学を卒業した仲間で、非営利の事業として続けているのだという。はじめは来場者もまばらだったが午後を過ぎると会場は小さな子どもと両親という家族連れで見る見るうちにいっぱいになり、一気に賑やかになった。参加者同士の和気あいあいとした楽し気な雰囲気を見るからに、ほとんどはリピーターなのだろうが、ここが求められている「場」であることがうかがえて興味深く思った。「豊かさ」の意味や、地域や世代を超えた人との関係について、考えたり友人と話したりする機会がよくあるこの頃。このワークショップには、ものづくりの楽しさや面白さというだけでない生き方の提案やヒントがいくつも潜んでいる気がした。今後の活動も楽しみ。

ワークショップ会場風景
2012/12/16(日)(酒井千穂)
コラボレーションプロジェクト:島田真悠子×ショーン・ブレヒト「Tokyo─Texas」
会期:2012/12/05~2012/12/25
ライズギャラリー[東京都]
建築写真のように端正なブレヒトの写真から島田が4点選び、それをもとに絵を描いている。島田はわりと忠実にブレヒトの写真を絵に起こしているが、大きく変えたのは写真には映っていなかった人間を入れたこと。たとえば無人のラグビー場には数人のプレイヤーを、郊外の貯水池には泳ぐ人たちを、ひっそりとした路地裏には逃げる子どもをザックリと描き込み、どこか不条理なドラマを呼び起こしている。ただ、そのドラマ性と荒っぽいタッチとがうまく噛み合わず、チグハグな印象を受けるのも事実。でもそのチグハグさが絵のおもしろさを生み出しているのも事実で、そこにコラボレーションの妙味もあるのかもしれない。
2012/12/16(日)(村田真)
生誕100年 松本竣介 展

会期:2012/11/23~2013/01/14
世田谷美術館[東京都]
36歳で早逝したから、しかも第2次大戦と敗戦後の混乱に翻弄された画家だから、広大な世田谷美術館の企画展示室を埋めるだけの作品があるのか疑問だった。ところが驚いたことに、2階の常設展示室まで使っての大回顧展ではないか。総作品点数240点以上、書簡やスケッチ帖などの資料も含めれば計400点を超す。でも絵としてはおもしろみを感じなかったなあ。いわゆる竣介らしさに、黒く細い線で輪郭を縁どる技法があるが、これって藤田嗣治の技法と似てなくね? 描くモチーフも戦争に対する画家のスタンスも対照的だったけど、両者はどこかで通底していたかも。もちろん藤田のほうが器用で繊細で振れ幅も大きく、サービス精神も旺盛なお調子者だったけど。もうひとつ奇妙に感じたのは、遠近法を使っているのに画面の奥行きや空間的な広がりが感じられず、閉じた感じがすること。とくに後期は人物があまり描かれてないからかもしれないが、画面を静寂感が支配しているように感じられるのだ。これは耳が聞こえなかったせいかしら。
2012/12/16(日)(村田真)
黄金町バザール2012
会期:2012/10/19~2012/12/16
黄金町周辺[神奈川県]
5回目を迎えた黄金町バザール。横浜の黄金町・日の出町界隈のスタジオや旧店舗を舞台に、33組のアーティストによる作品が展示された。2008年以来持続してきたせいか、今回の作品はモノとしての作品があれば、コトとしての作品もあり、観客参加型やプロジェクト型など、以前にも増して作品のバラエティが豊かになっていた。
たとえば近年独自のアニメーション映像を精力的に発表している照沼敦朗は、アニメと同じ薄暗い色合いで空間じたいを塗りあげ、同じ街並みを描きこんだうえで、その壁面のひとつにアニメーション映像をプロジェクターで投影した。ふつう映像を見る場合、映像のこちら側とあちら側ははっきりと分断されているが、照沼はその境界線をあえて溶かしあわすことで、映像の世界に没入するような感覚を巧みに引き出していた。
一方、照沼とは対照的にシンプルな空間をつくったのが、中谷ミチコだ。浮き彫りとしてのレリーフではなく、彫りこんだ内側に着色する「沈み彫り」(村田真)の作風で知られるが、今回も会場に入ると白い壁面に動物を描いた作品があった。もともとある壁に直接彫ったのかと思ったら、壁面全体に白い壁を仮設したうえでいくつかの図像を彫り込んだようだ。かつて違法風俗店が軒を連ねていた猥雑な街並みとは明確に一線を画して、白い空間を徹底してつくりあげた潔さが気持ちいい。
さらに中谷とはちがい、黄金町の街に正面から介入したのが、太湯雅晴である。自らに与えられた展示会場を、その近辺で働く日雇い労働者の男性に宿泊場所として提供し、ここにいたるまでの経緯を記録した映像もあわせて発表した。じっさい、会場の一角には彼が寝泊まりする仮設小屋が設置されていた。社会から切り離しがちなアートという領域を、あえて社会に向けて開き、その生々しいダイナミズムを持ち込もうとする志は、高い。ただ、太湯が「ホームレス」に声をかけている映像を見ると、宿泊場所の住人として当初「日雇い労働者」ではなく「ホームレス」を想定していたことがわかるが、その趣旨を説明するときに用いる「アート」「作品」「展示」という言葉が、彼らにはことごとく通じていないのが一目瞭然となっている。社会に直接的に介入しているにもかかわらず、アートと社会の隔たりが際立つという逆説があらわになっていたのである。
アートに社会を持ち込むだけでなく、社会にアートを持ちかけること。太湯の作品は、社会に介入するアートにとって今後乗り越えるべき課題を、じつに明快に提示したといえるだろう。そして、これは黄金町バザールをはじめ、全国各地のアートプロジェクトが考えるべき問題でもある。
2012/12/15(土)(福住廉)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)