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美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:小杉武久「音楽のピクニック」

会期:2017/12/09~2018/02/12

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

音楽家・小杉武久は、1960年に東京藝術大学音楽学部学理科の友人たちと結成した「グループ音楽」を皮切りに、ニューヨークでの「フルクサス」メンバーたちとの活動、1969年に結成した集団即興グループ「タージ・マハル旅行団」、「マース・カニングハム舞踊団」(コンテンポリーダンス)の音楽監督など、一貫して前衛的な立場から音楽の概念を拡張する活動を続けてきた。全5章で構成される本展では、第1章から第4章までを記録や資料の展示に当て、第5章では《マノ・ダルマ》(1967/2015)や《ライト・ミュージックII》(2015)などのサウンド・インスタレーションを展示。1950年代から現在に至る活動の軌跡を約300点の作品と資料で振り返る。

2017/10/23(月)(小吹隆文)

奥能登国際芸術祭2017 その3

会期:2017/09/03~2017/10/22

珠洲市全域[石川県]

芸術祭の魅力は現代美術の鑑賞をとおして開催地の風土や伝統、習慣を体験できる点にある。それは都市型の国際展では到底望めない、地域に根づいた芸術祭ならではの大きなアドバンテージである。
坂巻正美は上黒丸北山の集落に、この芸術祭が開催される前から通い詰め(奥能登・上黒丸アートプロジェクト)、今回は休耕田に大きな櫓を立て、大漁旗をなびかせた立体作品と、小屋の中で木造船や鯨の頭蓋骨などで構成したインスタレーションを発表した。あわせてこの日、展示会場にほど近い仲谷内邸で「鯨談義」を催した。
「鯨談義」とは、この地域で伝統的な生業としてあった鯨漁についての車座談義で、その経験者はもちろん地域の方々や芸術祭の来場者が交流する場である。一般のご家庭に入ると、土間では集落の方々が炭火で獣の肉を焼いており、居間では地酒とご馳走がふるまわれている。坂巻がプロジェクターで鯨漁の資料などを見せる傍ら、集落のご婦人たちが次から次へと暖かい料理を運んでくるので、話に耳を傾けながらも、神経はもっぱら舌の味覚に集中せざるをえない。鹿や猪の肉、鯨肉、そしてそれらの味を引き締める地産の塩。文字どおり海の幸と山の幸を存分に堪能したのである。
地域の風土や歴史、民俗文化と現代美術。そもそも後者が都市文化の賜物であることを思えば、前者と後者の相性は決してよくないはずだ。しかし、芸術祭という形式において両者は奇妙な共鳴を生んでいるように思われる。現代美術は民俗文化を主題とした作品を制作するばかりか、鑑賞者をそれらに導くための道しるべになっているからだ。芸術祭がなければ「鯨談義」に同席することはなかったはずだし、そもそも奥能登の風土を知ることすらなかっただろう。現代美術は芸術祭を経由することで民俗文化に接近しつつあるのではないか。

2017/10/22(日)(福住廉)

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石塚まこ「ちいさな世界を辿ってみると」

会期:2017/09/30~2017/10/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)[兵庫県]

神戸出身のアーティスト石塚まこが、地元のアートセンターでの滞在制作を経て個展を開催した。彼女は長らく海外を拠点に活動を続けており、絵画や彫刻といったオーソドックスな作品を制作するのではなく、滞在先で出会った人々や文化との交流を経て生じる感興や関係性を、さまざまなかたちで作品化している。その際に「食」をコミュニケーションの手段にすることも多く、本展では食にまつわるメモをびっしりと記したノートや、朝食を食べ終えたあとに残った野菜や果物の皮から着想した写真作品とそのバリエーションなどが展示された。彼女の作品はカテゴライズが難しく、正直これがアートなのかと思ったりもする。展覧会よりも本人と直接コミュニケートしたほうがずっと魅力が感じられるのではないか。しかし、こうした感想を抱くのは、こちらが常識に凝り固まっているせいかもしれない。今後も作品を見続ければ、彼女への評価が変化する可能性がある。関西のギャラリーやアートスペースがその機会を設けてくれるよう期待している。

2017/10/21(土)(小吹隆文)

あいちトリエンナーレ実行委員会有識者部会および運営会議

会期:2017/10/20

愛知芸術文化センター[愛知県]

あいちトリエンナーレの会議に出席する。芸術監督をつとめる津田大介が掲げるテーマ「情の時代 Taming Y/Our Passion」が発表された。タイトルは「じょう」とも「なさけ」とも読めて、強めの表現の英語タイトルは直訳というよりも、サブタイトルとして読める多義性をもったものである。また名古屋的な金と紫のカラーによるロゴも強烈だった。なお、プレゼンテーションでは、代表的な国際展のヴェネツィア・ビエンナーレをA=博覧会型、ドクメンタをB=テーマ型、ミュンスターをC=サイトスペシフィック型と分類しつつ、これまでのあいちトリエンナーレの2010年をA+C、2013年をB+C、2016年をA+Bと位置づけ、2019年はB+Cに近いタイプになることが説明された。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

ランス美術館展

会期:0017/10/07~2017/12/03

名古屋市美術館[愛知県]

1階は17世紀以降のフランスの美術史をたどる内容で、目玉はダヴィッドの「マラーの死」である。一方で2階は戦後、フランスに帰化した藤田嗣治のコレクションを紹介する。特に彼が壁画やステンドグラスを手がけ、建設したランスのフジタ礼拝堂に関する下絵などが充実していた。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

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