artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー

会期:2017/10/06~2017/11/19

愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)[愛知県]

師匠の応挙と比較したり、無量寺のふすま絵による空間を再現する、工夫を凝らした内容だった。やはり、建築を意識して描かれた絵画は、インスタレーションによって、美術館でも空間の雰囲気を体験できるとありがたい。猫目の虎や犬など、かわいらしいキャラや漫画タッチの絵、大胆な余白や構図、デザイン的な構成、書道の延長のようなドリッピングやステイニング的な手法など、現代アートの視点から見てもなかなか面白い。

2017/10/20(金)(五十嵐太郎)

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ロジャー・バレン「BALLENESQUE」

会期:2017/10/20~2017/12/20

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

ロジャー・バレンは1950年、アメリカ・ニューヨークの生まれだが、1980年代から南アフリカ・ヨハネスブルグを拠点に写真家としての活動を続けている。今回のエモン・フォトギャラリーでの個展は日本では初めての本格的な展示というべきもので、アメリカ時代の初期作品から近作まで、代表作33点が並んでいた。バレンといえば、「Platteland」(1994)、「Outland」(2001)など、南アフリカ各地で撮影された奇妙に歪んだ雰囲気の人物たち、どこか不穏な空気感を湛えた光景を6×6判の画面に封じ込めたモノクローム作品がよく知られている。だが、今回展示された「Shadow Chamber」(2005)以降のシリーズでは、ドキュメンタリーというよりは、被写体となる人物やオブジェを演出的に再構築したパフォーマンスの記録というべき側面が強まってきている。新作の「The Theatre of Apparitions」(2016)は、廃墟となった刑務所の壁の落書きを、スプレー絵具を吹きつけたガラスで透過して撮影したシリーズだが、ほとんどドローイング作品といってもよい。また、今回の個展の会場となったギャラリーの床には、チョークでドローイングが描かれ、ビザールな人形2体によるインスタレーションも試みられていた。バレンの関心は、写真という枠組みを超えて大きく広がりつつあるようだ。とはいえ、「Ballenesque」すなわち、「バレン様式」という造語をそのままタイトルにしているのを見てもわかるように、初期から現在に至るまで、彼のアーティストとしてのポジションに揺らぎはない。現実世界を写真という装置を使って増殖、変換していくときに生じるズレや歪みに対する鋭敏な反応は一貫しており、近年はその振幅がより大きく振れつつあるということではないだろうか。その「魔術的リアリズム」は、ラテン・アメリカの写真家たちとも共通しているようにも思える。

2017/10/20(金)(飯沢耕太郎)

敦義門博物館マウル

[韓国、ソウル]

敦義門博物館マウルは、ソウル建築都市ビエンナーレのもうひとつの主要会場だが、オープンしたばかりの施設である。その名称から移築系の屋外博物館かと思いきや、実はマンションの大規模な開発に伴い、公開空地とするはずの街区の建築をまるごと保存した、ありそうでなかったプロジェクトだった。ゆえに、路地を含む20世紀の普通の街並みが残された。すでにカフェやレストランも入っているが、今後これらの建築群をどう活用するかも検討中だという。

2017/10/18(水)(五十嵐太郎)

柴田知佳子展

会期:2017/10/16~2017/10/28

ギャラリー白kuro[大阪府]

ギャラリー白には、画廊にしては珍しいブラック・キューブの空間がある。ここでは立体の展示が多いが、柴田知佳子は絵画でもこの空間を生かせることを証明した。展示作品は1点のみ。天地2m×左右6mの大作で、壁の長さより大きいため空間を斜めに横切るように展示された。作品は主に深い青(群青とも紫とも)と黒を用いた抽象画で、ほかにも複数の色彩が用いられている。特に金の使用は効果的だった。ストロークは縦方向が基調で、そのスピードや調子、太さが自在にコントロールされながら左右に広がっていく。筆者は横長の絵画を見る時に右から左へと見る癖があるのだが(絵巻物や書籍の影響)、作品を舐めるように見つめていくと次々に移り変わる画面に魅了され、陶酔的な気分を味わった。作品が大きいため一度に全体を把握するのは不可能で、何度も作品の前を動き回ることになるのだが、どれだけ見ても視覚的快楽は尽きない。じつに深い絵画体験だった。あえてひとつ不満を述べると、作品の一部がどうしても部屋に入り切らず別の壁に展示されていた。作品全体を見てほしいという作家の意向は分かるが、この会場では不要だったと思う。

2017/10/17(火)(小吹隆文)

Urban Ritornello: The Archives on Community

会期:2017/09/15~2017/12/03

イルミン美術館[韓国、ソウル]

イルミン美術館の「Urban Ritornello: The Archives on Community」展へ。目的は窓学展に出品した鎌田友介の作品である。韓国に残る日帝時代の家屋を調査し、その居住者へのインタビュー映像、資料、図面などを展示していた。韓国における近代の日本家屋は、「敵性家屋」と呼ばれており、負の記憶という意味で震災遺構と重なる建築だろう。来年、彼はソウルで大型のインスタレーションの展示を予定しているという。

写真:鎌田友介作品

2017/10/15(日)(五十嵐太郎)