artscapeレビュー
岡部桃「Bible & Dildo」
2016年01月15日号
会期:2015/11/26~2016/12/22
成山画廊[東京都]
岡部桃が2014年に刊行した『Bible』(SESSION PRESS)は、正直気持ちが沈み込む写真集だ。性転換手術後の生々しいイメージに、3・11以後の被災地やインドの光景が混じりあい、重なり合う。赤っぽいハレーションを起こしたような色味に染め上げられたプリントも、吐き気がするようなおぞましさだ。だがそれらの鈍い痛みをこれでもかこれでもかと送り込んでいる写真群を見ているうちに、なぜか奇妙に静まりかえった、柔らかな微光に包み込まれた世界に連れて行かれるような気がしてくる。見続けているのがつらくなるようなイメージの羅列には違いないのだが、そこにはたしかに「これでいいのだ」という肯定感が漂っているのだ。
岡部は1981年、東京生まれ。1999年に写真新世紀で優秀賞(荒木経惟選)を受賞し、2001年には写真ひとつぼ展に入選して注目されるが、その後日本での発表は滞り気味だった。2013年に発表した写真集『Dildo』(SESSION PRESS)と『Bible』がアメリカやヨーロッパで反響を呼び、2015年にはオランダの「Foam’s Paul Huf award」を受賞するなど、その「痛み」に肉薄する表現のあり方が、むしろ海外で高く評価されるようになった。今回の成山画廊での展示は、「深く愛した恋人との家族写真、記憶の記録」である「Dildo」と「死に対する絶望と恐怖」に彩られた「Bible」とが合体した構成であり、点数は12点と少ないが、テンションの高い作品が並んでいた。もう少し大きな会場での展示もぜひ見てみたい。
2015/12/10(木)(飯沢耕太郎)