artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

山本爲三郎没後50年 三國荘展

会期:2015/12/22~2016/03/13

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

アサヒビールの初代社長・山本爲三郎(1893~1966)の没後50年を記念して、彼が生前に民藝運動をあつく支援した証である「三國荘」を再考する展覧会が開催されている。三國荘は元々、民藝運動の創始者である柳宗悦が1928年の御大礼記念国産振興東京博覧会に出品したパビリオン「民藝館」であり、博覧会終了後に山本が買い取り、大阪・三国の自宅に移築して「三國荘」と命名した。本展では、山本コレクションの陶磁器・調度品など三國荘ゆかりの品々を展示しているほか、三國荘の応接室と主人室を実寸大で再現しており、当時の様子をリアルに体感できる貴重な機会となっている。山本は民藝以外にも様々な美術工芸品をコレクションしており、それらのうち少なからずが関西の美術館・博物館に寄贈されている。我々はその恩恵を受けている立場であり、彼の業績に深く感謝を捧げるべきであろう。

2016/01/07(木)(小吹隆文)

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最初の人間国宝──石黒宗麿のすべて

会期:2015/12/08~2016/01/31

松濤美術館[東京都]

昭和30(1955)年に重要無形文化財保持者(人間国宝)の制度が誕生したときに、富本憲吉、濱田庄司、荒川豊蔵らとともに、認定を受けた陶芸家・石黒宗麿(1893~1968)の20年ぶりの回顧展。石黒が人間国宝の認定を受けたのは鉄釉陶器の技。しかし、生涯に試みられたその技法、絵付け、表現は驚くほど多彩だ。それも時代による変遷というだけではなく、途中に断絶がありながら同じ技法が後日ふたたび試みられたりもする。陶芸に師を持たなかった石黒の制作は、中国・朝鮮の古典陶磁の再現、模倣からはじまり、そこから独自の表現へと昇華させる。いわゆる本歌取りである。展示はこうした石黒の多彩な作品を技法別に章立てし、それらを最初に試みられた順に従って構成しているのだが、漢詩や書画も含めると全部で16章にもなることからも、その仕事の多様性がうかがえよう。人間国宝の制度が技法について認定されるものであるがゆえに現代の工芸家たちは特定の技法を極める方向に進みがちであるが、石黒の多様な試みに若い世代の陶芸家たちが強く関心を抱いているようだ、とは、1月10日に松濤美術館で行なわれたシンポジウムにおける金子賢治・茨城県陶芸美術館館長の言葉。
 本展覧会が単純な優品の展示に留まらず、最新の研究成果に基づいて構成されている点は特筆しておきたい。陶芸ジャーナリスト・小野公久氏による多年にわたる調査研究★1により、石黒宗麿の書簡、石黒と交流のあった竹内潔眞・大原美術館初代館長の日記における石黒に関するの記述などの存在が突き止められ、これまでおもに小山冨士夫のテキストによって伝えられてきた年譜年代の誤りが訂正されたほか、石黒による民藝運動への批判など、作品の背後にある作家の思想が明らかにされてきた。また野積正吉・射水市新湊博物館主任学芸員は、作品の銘印や箱書の署名の調査によって石黒作品の制作年代の特定を進めている。異端の陶芸家に関するこのような実証的な方法による検証が他の伝説的な近代陶芸家についても行なわれることを期待する、とは、これもまた金子賢治氏のコメントである。[新川徳彦]

★1──小野公久『評伝 石黒宗麿 異端に徹す』(淡交社、2014)

2015/12/26(土)(SYNK)

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Tiles──一枚の奥ゆき、幾千の煌めき

会期:2015/12/26~2016/01/06

Bunkamura Gallery[東京都]

愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」が所蔵するタイルコレクションの一部を、歴史や用途、装飾などをテーマに展示する出張展。展示では過去から現在までのタイルを四つのテーマに分けて紹介している。第1は「Dot」。円形や正方形のタイルによって文様や絵を表わすもの。その起源は紀元前3500年ごろの古代メソポタミアの神殿にあり、そこでは3色の円錐形をしたやきものを積み上げることによって壁面に文様を表現したという。ほかにタイルモザイクによる東郷青児の《裸婦》などが出品されている。第2は「Geometry」。偶像崇拝が禁じられているイスラムの建築では、幾何学文様がタイルモザイクによって表現されたほか、タイルそのものを正三角形や六角形、星形などの形状にして組み合わせることも行なわれた。イスラムの影響を受けた15世紀スペインでは、幾何学模様を表わしたものも登場している。第3は「Motif」。おもに花模様のタイルが取り上げられているが、それは単独でも鑑賞できると同時に、何枚も並べていくことで空間をつくり出す文様としての機能をも持っている。第4は「Metamorphosis」。複数のタイルを並べることによって生まれる模様は、ただ繰り返しパターンの面白さだけではない。1枚のタイルに施す文様に工夫を凝らすと、複数のタイルを並べたときに、多様な組み合わせパターンを生み出すことが可能になる。組み合わせかたによってまったく異なる表情を見せる建築家・デザイナーのジオ・ポンティによるタイルは、映像によってその組み合わせの妙を見せる。
 展覧会の副題に「一枚の奥ゆき、幾千の煌めき」とあるように、タイルは1枚1枚を絵としてみることもできるし、幾何学的文様のタイルを組み合わせることで空間をつくり出すこともできる。やきものであるが故に耐水性耐久性を持つ機能的な建築材料であると同時に、空間を装飾したり、物語や歴史、宗教的教訓を伝える絵画としての役割も併せ持つことができる素材でもある。本展ではそうしたタイルの歴史と現在、デザインと意匠、用いられ方のヴァラエティがコンパクトにまとめられていた。[新川徳彦]

2015/12/26(土)(SYNK)

LABYRINTH OF UNDERCOVER“25 year retrospective”

会期:2015/10/10~2016/12/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

25周年を迎えたブランド、UNDERCOVERのコレクションから、ファッション、写真、映像、ドール、スケッチなどを一堂に紹介する。かわいいだけではなく、奇形的、あるいは怪物的なパンク・デザインもあって興味深い。

2015/12/18(金)(五十嵐太郎)

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金銅仏きらきらし──いにしえの技にせまる

会期:2015/10/24~2015/12/22

大阪大学総合学術博物館 待兼山修学館[大阪府]

仏像の外観にみられる造形美を愛でる展覧会は数あれども、そのつくられ方を見て考える機会はなかなかない。本展は、5~9世紀における東アジアの金銅仏(青銅でつくり金メッキした仏像)の組成成分をX線で分析することで得られた成果を披露し、仏像の制作工程・技法を紹介するもの。序章では、東京国立博物館と東京藝術大学によって制作された興福寺仏頭の模型を例に、その鋳造プロセスを探る。原型(土型・蝋型)の種類、鋳型の固定方法、溶銅の注ぎ口・出口の作成法などは現在でも謎だそうだ。第1章では、東京藝術大学大学美術館、大阪市立美術館、逸翁美術館、白鶴美術館が所蔵する日本・韓国・中国・チベットのさまざまな金剛仏42体を展示し、蛍光X線分析などの詳細な調査結果が踏まえられている。最後の第2章では、如意輪観音半跏像が展観される。仏像の様式と技法に加え、組成比率から制作地域や年代を探求する手がかりとなる。飛鳥・奈良時代には金できらきらしていたであろう金銅仏の姿に思いを馳せつつ、その表現だけでなく、物質性・素地の色・金属の固さにも目が引き付けられた。[竹内有子]

2015/12/15(火)(SYNK)