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最初の人間国宝──石黒宗麿のすべて

2016年01月15日号

会期:2015/12/08~2016/01/31

松濤美術館[東京都]

昭和30(1955)年に重要無形文化財保持者(人間国宝)の制度が誕生したときに、富本憲吉、濱田庄司、荒川豊蔵らとともに、認定を受けた陶芸家・石黒宗麿(1893~1968)の20年ぶりの回顧展。石黒が人間国宝の認定を受けたのは鉄釉陶器の技。しかし、生涯に試みられたその技法、絵付け、表現は驚くほど多彩だ。それも時代による変遷というだけではなく、途中に断絶がありながら同じ技法が後日ふたたび試みられたりもする。陶芸に師を持たなかった石黒の制作は、中国・朝鮮の古典陶磁の再現、模倣からはじまり、そこから独自の表現へと昇華させる。いわゆる本歌取りである。展示はこうした石黒の多彩な作品を技法別に章立てし、それらを最初に試みられた順に従って構成しているのだが、漢詩や書画も含めると全部で16章にもなることからも、その仕事の多様性がうかがえよう。人間国宝の制度が技法について認定されるものであるがゆえに現代の工芸家たちは特定の技法を極める方向に進みがちであるが、石黒の多様な試みに若い世代の陶芸家たちが強く関心を抱いているようだ、とは、1月10日に松濤美術館で行なわれたシンポジウムにおける金子賢治・茨城県陶芸美術館館長の言葉。
 本展覧会が単純な優品の展示に留まらず、最新の研究成果に基づいて構成されている点は特筆しておきたい。陶芸ジャーナリスト・小野公久氏による多年にわたる調査研究★1により、石黒宗麿の書簡、石黒と交流のあった竹内潔眞・大原美術館初代館長の日記における石黒に関するの記述などの存在が突き止められ、これまでおもに小山冨士夫のテキストによって伝えられてきた年譜年代の誤りが訂正されたほか、石黒による民藝運動への批判など、作品の背後にある作家の思想が明らかにされてきた。また野積正吉・射水市新湊博物館主任学芸員は、作品の銘印や箱書の署名の調査によって石黒作品の制作年代の特定を進めている。異端の陶芸家に関するこのような実証的な方法による検証が他の伝説的な近代陶芸家についても行なわれることを期待する、とは、これもまた金子賢治氏のコメントである。[新川徳彦]

★1──小野公久『評伝 石黒宗麿 異端に徹す』(淡交社、2014)

2015/12/26(土)(SYNK)

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