artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

千光士誠 母展

会期:2017/07/04~2017/07/09

ワイアートギャラリー[大阪府]

老齢の着物姿の母を、ハイライトを強調して描いた具象の肖像画。そのストレートさ、光と闇が交錯する劇的な構成が印象的だった。千光士の作品は2006年から2012年頃にかけて個展やグループ展で見ていたが、当時は墨を用いたダイナミックなドローイングで、本展の作品とは全然違っていた。また近年の彼は、一対一で対象と向き合う肖像画のプロジェクトを行なっており、ギャラリーで見る機会がなかったため、動向を掴めていなかった。久しぶりに再会した千光士は相変わらず精力的で、確信をもって自分が成すべきことに邁進していた。画風が変化したと言っても、彼のテーマは最初から「人間」であり、その意味では一貫した活動を続けているのだ。今後の活動予定については聞かなかったが、一対一のプロジェクトをまとめて発表する機会があれば面白いのではないか。もちろんほかの作品でも良いので、今後も展覧会活動を続けてほしい。

2017/07/06(木)(小吹隆文)

新いけばな主義

会期:2017/06/24~2017/07/02

BankART Studio NYK3F[神奈川県]

「気鋭の現代いけばな作家が集結!」「現代いけばなの歴史的展覧会」「平成のいけばな史に残るであろう本展」と、力の入った文言がチラシに踊る。流派を超えて集ったいけばな作家は計27人。うち草月流が10人、小原流が5人、龍生派、未生流、古流松藤会、一葉式いけ花などなんらかの流派に属しているのが8人、フローリスト、フラワーアーティストなどインディペンデントが4人という内訳。一人にあてがわれたスペースは、不公平にならないようにグリッド状に並んだ柱から柱まで5×5メートルの空間に統一されている。
さてその作品だが、「新」とつくからには花瓶や水盤に生ける古風な花なんぞ期待してはいけない。ベニヤ板を重ねたり、ナスを漬けたり、花びらを水に浮かべたり、およそ植物を素材にしたものならノープロブレム。しかしいけばなとして見れば新鮮かもしれないが、現代美術として見れば特に目新しいものでもなく、既視感はぬぐえない。グランプリは、これはなんという植物だろう? 肉厚の巨大な葉を重ねて龍の姿に仕立てた原田匂蘭が獲得。しかしよく見ると、グランプリの対象になるのは公募による審査を通過した12人だけで、残り15人は招待作家なのだ。これはいわゆる公募団体展と同じやり方ですね。まあ小原流も龍生派も未生流も宣法未生流も古流松應会も古流かたばみ派も、家元が出してるから落とすわけにはいかず、あらかじめグランプリの対象から外したのかもしれない。どうでもいいけど。

2017/06/30(金)(村田真)

KIYOME MO/NU/MENT

会期:2017/06/30~2017/07/02

スパイラルガーデン[東京都]

そういえば審査したのは何年前だっけ……と、忘れたころに(3年前でした)コンペで選んだ作品の発表会が開かれた。タイトルからはなんのコンペか想像がつかないだろうが、じつは木曽に本社を置く檜風呂の制作販売会社、檜創建が主催する木曽檜を使った浴槽のコンペなのだ。タイトルの「KIYOME」とは「清め」「浄め」であり、入浴の婉曲な表現だ。発表まで3年もかかったのは、コンペで選ばれた彫刻家の木戸龍介によるプランが卵型のシェルターを持ち、おまけに表面の一部に網状の透かし彫りを入れるという手の込んだデザインだったため、制作に予想以上の時間がかかったから。主催者あいさつ、審査員の講評、乾杯に続き、希望者は卵の内部に入って(湯は張ってないが)入浴気分を堪能できる。入ってみると檜の香りが漂うなか、透かし彫りから外の光が星明かりのように差し込んできて、これはぜひ湯を張って入りたいと思わせるデキだった。

2017/06/29(木)(村田真)

「洸庭」名和晃平|SANDWICH 図録刊行記念対談

会期:2017/06/25

神勝寺 無明院[広島県]

名和晃平×五十嵐で『洸庭』図録刊行記念対談@神勝寺無明院。今回、対談を通じて新しく知った事実について記しておきたい。あいちトリエンナーレ2013における彼の作品《foam》(最近、PerfumeのCMで似たセットが使われているが)になる前の別プランが、じつは闇の中で床いっぱいに水をしくものだった。結局、納屋橋の会場では闇が十分でなく見送ったが、これが発展して《洸庭》につながった。そして、もうひとつ思い出したことがあった。彼がキリンアートアワード2003に入賞したとき、筆者は審査員でその受賞展の担当だったが、「PixCell」の展示で彼が空間にとてもこだわり、影がでない特別な白い部屋を設けたこと。つまり、作品を単体で考えず、いかなる環境で見せるかを最初から重視していたのである。それを突き詰めると、今回のプロジェクトのように、建築をまるごとつくることに発展するのは必然だろう。

2017/06/25(土)(五十嵐太郎)

名所絵から風景画へ─情景との対話(後期)

会期:2017/05/27~2017/06/25

三の丸尚蔵館[東京都]

久々に三の丸尚蔵館へ。大手町から皇居東御苑に入ると外国人が多くなる。皇居だから西洋人ばかりだと思ったら、中国人や韓国人も意外と多かった(言葉やファッションでわかる)。まあ日本に来るくらいだから反日は少ないだろうけどね。で、三の丸尚蔵館。昭和天皇の崩御後、国に寄贈された御物の保存・研究を目的に建てられたもので、当初は一般公開するつもりがなかったらしく(美術館などへの貸し出しを考えていた)、収蔵庫(約1000平方メートル)に対して展示室(約160平方メートル)は異様に小さい。だからひとつのテーマで展示するときも2、3回に分けることが多い。今回も3期に分けたうちの後期の展示。タイトルどおり、近世の名所絵から山水画、真景図、近代以降の風景画まで、風景画の変遷をたどっている。出品は江戸期の雲谷派による《唐土名勝図屏風》、明治期の石油の産出現場を描いた児玉果亭の《石脳油産地之真景》、山本森之助による印象派風の油絵《夾竹桃》、丸山晩霞の美しい水彩画《犀川の秋》など、珍しい絵ばかり計12点。数も少ないし、入場無料だし、みんな気楽に見ている。

2017/06/24(土)(村田真)