artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

アンデルセン展

会期:2017/04/22~2017/06/25

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

日本・デンマーク国交樹立150周年を記念して川崎市市民ミュージアムで「アンデルセン展」が開催されている。展覧会第1部はハンス・クリスチャン・アンデルセン博物館所蔵資料を中心に、1805年に貧しい靴屋の子として生まれたアンデルセンが作家として成功し、1875年に70歳で亡くなるまで、その生涯と人物像をたどる。筆者はこの展覧会でアンデルセンが切り絵作家としても有名だったということを初めて知った。展示されている切り絵は、おそらく色紙を半分に折ってはさみで切り抜いたのであろう左右対称で、彼の童話を想起させるお城や人物などのユーモラスな作品を見ることができる。このほか生涯に30回にも上った海外への旅、一度も実ることがなかった恋の話、VRによる書斎の再現などで、アンデルセンの作品にその人生がさまざまな形で投影されていることが語られる。展示第2部は「みんなのアンデルセン」と題して、狭山市立博物館の「第2回みんなのアンデルセン展」公募作品の展示と、アンデルセン童話をテーマとしたインタラクティブ作品を楽しむことができる。また、アートギャラリーでは本展チラシのイラストも手がけている川崎市在住のイラストレーターNaffy氏の作品展、ベーカリービジネスのアンデルセングループが主催する「アンデルセンのメルヘン大賞」受賞作のために描かれた挿絵の原画展が同時開催されるなど、盛りだくさんな企画。第1部以外は入場無料だ。
本展は川崎市市民ミュージアムが新しい指定管理者に代わって最初の企画展。駐日デンマーク大使が列席した開会式には多くの関係者が集まり、人々の関心の高さがうかがわれた。[新川徳彦]

2017/04/21(金)(SYNK)

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東北大五十嵐研のゼミ合宿4 TeNQ テンキュー宇宙ミュージアム

TeNQ テンキュー宇宙ミュージアム[東京都]

その後、後楽園の宇宙ミュージアムTeNQへ。これも東京大学総合研究博物館との連携プロジェクトなのだが、残念ながらデザインは子どもだましで、正直1,800円は高い(IMTやアーキテクトニカが無料なだけに)。さすがにウリの直径11mの足元映像のシアター宙はそれなりのコンテンツだったが、もっと効果的な使い方があるのではないか。

2017/04/21(水)(五十嵐太郎)

海難と救助─信仰からSOSへ─

会期:2017/02/18~2017/04/16

横浜みなと博物館[神奈川県]

「板子一枚下は地獄」という言葉があるように、海という大自然を相手にする船乗りの仕事はつねに危険と背中合わせだ。それでも、モノやヒトの輸送という需要があるところに海運業は栄え、同時に海難のリスクを軽減するためのさまざまな努力が行なわれてきた。本展は江戸時代から現代まで、海上交通に関わる人々の海難事故への対応の歴史を辿る展覧会だ。第1章は江戸時代の海難と救助。気象予報がなく、航路標識なども未整備だった江戸時代には海難事故を未然に防ぐ手立てはほとんどなく、船乗りたちは常日頃から神仏に航海の安全を祈ってきた。他方で、事故が起きた際の対応はある程度整備されていた。沿岸の住民には海難救助が義務づけられており、人を救助した者には報酬が、また引き上げられた積み荷に対しては、その評価額から一定の割合の金額が支払われたという。近代になると事故が起きるたびに新たな安全対策がなされ、技術は改良されてきた。第2章では明治時代以降の歴史に残る海難事故とそれらを教訓に行なわれてきた安全対策、第3章では灯台や航路標識の整備、海図の制作、気象予報の充実や法令の整備など、事故を防ぐための努力が紹介されている。ここでは海難救助の方法を解説した掛図(明治後期~大正期)や、海難防止を周知するポスターなどのグラフィックが興味深い。さまざまな対策、技術が進歩しても、自然条件による事故、人為的なミスが完全になくなることはない。第4章では無線や救命胴衣など事故への備えと、船体のサルヴェージなど、事故が起きることを前提とした各種の対策が紹介される。さて、展覧会の主題は「海難と救助」ではあるが、海難を扱う以上、リスクの分散や、救助、安全対策にも大きな役割を果たしている海上保険や船級協会についても解説して欲しかったところだ。[新川徳彦]

2017/04/14(金)(SYNK)

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新宿区成立70周年記念協働企画展 新宿の高層ビル群ができるまで 塔の森クロニクル

会期:2017/03/05~2017/05/07

新宿歴史博物館[東京都]

文字どおり新宿高層ビル群の歴史的変遷を見せた展覧会。同館はこれまでも類似した企画展を催してきたが、今回は「視覚的・立体的に体感できる西新宿ビル群の年代記」をコンセプトに据えたうえで、中西元男らによる映像作品《西新宿定点撮影》(1969- )をはじめ、関連する地図、書籍、写真などの資料を展示した。
ただ今回の展示の中心は、なんといっても新宿駅構内の模型作品である。これは昭和女子大学環境デザイン学科田村研究室によって制作された縮尺1/100の模型。シナベニヤ板を加工した水平パーツと階段パーツを組み合わせた立体造形で、ちょうど腰のあたりまで吊り上げられて展示されているので、地上と地下を縦横無尽に入り乱れる複雑な構造が手に取るようにわかる。普段新宿駅を利用する人であっても、それがこれほど多層的に構成されていることに思いが及ぶことはなかなかない。私たちにとっての日常を相対化する装置として、この作品は大きな意味をもつ。
しかしその一方で痛感したのは、そのような複雑な構造の中を規則的に循環する私たち自身の儚さである。むろんこの模型には人間の形象が組み込まれていたわけではないし、ある種の記号として明記されていたわけでもない。だが、迷路のように複雑な構造体の中を、少なくとも1日340万人もの人間が利用しているという事実を踏まえると、そこには眼に見えない人間のイメージが立ち現われているようでならない。通勤ないしは通学のために利用している乗降客の大半は、決まりきったルートを日々移動しているはずだから、そのおびただしい人の流れはまるで臓器の中を循環する血流に近いのかもしれない。
人間が人間のためにつくり出したにもかかわらず、それが人間を支配するようになるという倒錯。「フランケンシュタイン」に典型的に描かれているような疎外論は、私たちの幸福を考えるうえで依然として有効なトピックである。その観点から現在の都市生活を根底から再考させるという点で、本展は意義深い。

2017/04/08(土)(福住廉)

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戦時下東京のこどもたち

会期:2017/03/07~2017/05/07

江戸東京博物館[東京都]

戦時中の庶民の暮らしを紹介する企画展。約160点あまりの資料によって、戦時下の東京の生活様式を振り返った。
同類の企画展は数多く催されてきたが、本展の独自性は実在する当時の子どもたちを展示構成の中心に置いた点である。ヤヨイさん、アキヒロくん、タケシくん、ケイコさん、モトコさん、Sさん、ケイスケくん、マサノリくん、レイさん、ミチコさん。いずれも東京で生まれ、あるいは育ち、空襲や集団疎開の経験をもつ方々だ。興味深いのは、彼らの個人史や言葉が資料に織り交ぜられたことで、基本的には何も物語ることのない資料に、ある種の奥行きを感じることができた点である。聞こえるはずのない声が聞こえ、見えるはずのないイメージが見えた、ような気がする。「物」と「人」は決して切り分けられるわけではなく、双方が分かちがたく結びつけられていることを象徴的に物語る展観だった。
とりわけ印象深いのが、風船爆弾の製造。風船爆弾とは、気球で吊り上げた爆弾を風船のように大空に飛ばすことで防空ないしはアメリカ本土への攻撃を試みる兵器で、極秘作戦として秘密裏に製造されていたようだ。展示された資料は、いずれも廃棄処分を命じられていたため、本来であれば現存しない、きわめて貴重なものである。レイさんは、14歳の秋(1944年)、東京宝塚劇場にあった風船爆弾気球製造工場に動員され、他の女学生とともに気球部分の断片を貼り合わせる作業に従事していた。驚くべきことに、この気球は直径10メートル、しかもすべて和紙を3層ないしは4層に貼り合わせたものだったという。記録写真を見ると、空気を充満させた巨大な気球を両手で押さえている女学生たちが小さく写っている。
文字どおり手作業の集団制作による巨大な風船爆弾。そこには制空権を失ったあとも、自分たちの暮らしを守るために、やむにやまれず知恵を絞り、力を尽くした当時の人々の切実な必要性を見出すことができた。この後、東京大空襲で甚大な被害を被ったことを考えると、その蟷螂の斧のような振る舞いには悲しみがよりいっそう募る。だがその一方で、レイさんという個人を中心にまとめられた資料と対面したせいか、そこには「戦争」や「平和」という論理には回収しえない、ものつくりの熱情が感じ取れたのも事実である。それは、善悪の彼岸にある、もしかしたら美術にも通底しているかもしれない、人間の根源的な欲動に由来しているのではなかったか。

2017/04/08(土)(福住廉)

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