artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
KATHY's "New Dimension"

会期:2011/06/03
ピンク、ブルー、イエローの衣装を身にまとい、ブロンド髪で顔には黒ストッキングをかぶっている(かに見える)、ユニークなルックスの三人組KATHY。「きもかわ」というか、ホラーと乙女チックの両方を重ね合わせたイメージと、「指令者が課してくる任務の遂行として踊る」といったコンセプトとで、これまでコンテンポラリー・ダンスの世界に限らず、さまざまな場で話題を振りまいてきた彼女たちが、6月に本を出した。タイトルにあるように「新しい次元」でのダンスがテーマ。驚くのはこの「次元」という言葉が比喩として用いられているのではないということ。宇宙物理学などを援用しながらの文章では「みえないダンスの世界へ」「マルチバース(多元的宇宙)においてのあたらしいダンスを考える」などの言葉が踊る。「新しい」なにかがここに胎動していると感じられはする、とはいえ、正直まだ謎めいた部分も多い。おそらく、本書を発端に展開される今後の活動を通して真意が明らかにされていくことだろう。現時点で十分明白に感じられるのは、「ダンス」という言葉で通念上考えられているなにかとは異なるなにかを希求する強い思いがKATHYのなかに沸き立っていること。なるほど、「立てない身体」から出発した土方巽が「床」の存在を疑ってみせたように、新しいダンスは、ぼくたちの通念を疑うところからしか始まらないに違いない。
「みえないダンス」の可視化に寄与しているのは、水野健一郎によるイラストレーション。肉体をもって踊ることが(通念上の意識において)三次元のダンスであるとして、一次元引いた(二次元の)イラストレーションによってこそ、三次元のダンスの限界の「先」が示唆できる、という事態に驚かされた。そうか、イラストレーションとしてのダンスか! ダンスは肉体で踊られなくても作品化できるのだ! 水野の絵には、ときにハンス・ベルメールの素描を連想させるところがあり、身体や空間のイメージが拡張されるスリルに満ちている。その意味で、水野の作品集『Funny Crash』をあわせて読むことをお勧めする。ちなみに添付されたDVDに収録されているKATHYの最新映像作品によっても十分予感を与えてくれていることなのだけれど、今後のKATHYや彼女たちと水野健一郎とのコラボレーションによって、彼女たちの謳う「あたらしいダンス」が確実なかたちを帯び、世界を震撼させるときがくることを待望せずにはいられない。
2011/06/03(金)(木村覚)
プレビュー:Nibroll『This is Weather News』
会期:2011/06/24~2011/07/03
シアタートラム[東京都]
Nibrollの新作『This is Weather News』が一押しです。Nibrollと言えば矢内原美邦の振り付けばかりが話題になりますが、もともとNibrollとはアーティスト集団の呼び名です。衣装や映像などを担当する作家集団としての彼らの久しぶりの東京公演が、これです。昨年あいちトリエンナーレ2010で初演された作品。今回の上演では、東日本大震災以後の状況というものがテーマと深く関わり、さらに「推敲」が重ねられているそうです。昨年の矢内原美邦による『あーなったら、こうならない。』では、戦争のイメージなど不吉な「非日常性」が作品に際立った印象を与えていましたが、本作では、そうした「非日常」が日常と化したいまの日本の状況がきっととりあげられることでしょう。そこで、どんな表現が彼らのメッセージとして投げかけられるのか、期待したいところです。
2011/05/31(火)(木村覚)
手塚夏子『民俗芸能と3.11以降』(2日目「実験地獄──生きたいから反応する」)
会期:2011/05/21~2011/05/22
小金井アートスポット シャトー2F[東京都]
1年以上前から国内外の祭りや芸能上演の場に行き、調査を繰り返している手塚夏子。これまでに獅子舞を試演したこともあるという。彼女のこうした方面へのアプローチを今回初めて体感した。大いに期待してしまうのは、昨年の公演『私的解剖実験5 関わりの捏造』に祭りの要素があったからで、そのときぼくのなかに「都市においてダンスの上演は今日的な祭儀の場となりうるのか?」という問いが浮かんだのだった。「都市に祝祭はいらない」と平田オリザが口にしてから十数年経つ。ぼくらの祝祭の要/不要あるいは可能性/不可能性をめぐる問いに、手塚はどう迫ろうとしているのだろう。
「実験地獄」と称された本上演は、休憩含め4時間。公演というより、あらかじめ用意した10個の課題を観客にも参加をうながしながら実演してゆくといった体裁。床に散らばる日常の小物たちを拾い、小物から喚起されたイメージを隣のパフォーマーに実演させたり、繰り返すシンプルな動作を「問い」とみなして「問い」を発した者以外の参加者が言葉でそれに「答え」たりと、焦点は各人のイメージの交換にあるようだ。課題の合間のトークで、手塚はそこに「見立て」というキーワードを置いた。「しめ縄」がときに「蛇」ときに「川」に見立てられるように、民俗芸能にしばしば見られる「見立て」、これに注目してみようというのだ。パフォーマーと観客が取り組む作業はしかし、民俗芸能の内に潜む、なにかをなにかに見立てたい「欲望」には直接触れない。この欲望に共同体の結集する力が潜んでいるのだろうし、祭りに集う者たちの共有する熱を煽って、それは祭りのテンションを高めることだろう。しかし、「実験地獄」はその点を括弧にいれたまま進む。モダニスティックな手つきが、なにか大事なものを無視しているように見えてイライラさせられもする。けれども、わかりやすく人を結集させるなにかを安易に置かないことによって、「見立て」の作業は、参加する個々人の抱える欲望の深みへ向かおうとしているかに見えた。
ぼくたち(いや内実をもった「共同体」というものが成立し難いいま「ぼくたち」などと言って集団を括ることはできない、とすれば「ぼくたちの各々」とでも言い直すべきだろう)が今日なにを真に欲しているのか、その問いを無視するならば、どんな祭りも形骸化するだけだろう。その問いは間違ってはいない。そのうえで思うのは、人を巻き込み、祭りの熱狂へと人を誘う、その手管に関しての地獄のような実験も見てみたいということだ。
2011/05/22(日)(木村覚)
Chim↑Pom「REAL TIMES」
会期:2011/05/20~2011/05/25
無人島プロダクション[東京都]
東日本大震災以後、現地に乗り込んで現地の若者と共作した作品《気合い100連発》。円陣を組んだChim↑Pomと現地の若者たちが一言ずつ叫んでは「オーイ!」と声を合わせる。「がんばるぞ(オーイ!)」「早く水着の美女が見たいぞ(オーイ!)」「東北最高(オーイ!)」などの声が上がるなかで、一番「ぞくっ」としたのが「放射能最高(オーイ!)」の叫びだった。「最高」とは、放射能を賛美しているのでも現実から逃避しているのでもない、むしろ「負けないぞ」という意味で発せられているわけで、例えば「放射能上等」と言い換えてもいい表現だろう。あまた生まれ続けている「震災後のアート」のなかで、「放射能」と拮抗しつつ「生きよう」とする思いが作品化されたものをぼくはこれ以外に知らない。叫び声は前向きで明るいが、彼らの円陣が被災地の景色のなかであまりに小さく見えると、そのコントラストにまた「ぞくっ」としてしまう。Chim↑Pomのカメラは思いのほか冷徹だ。それは、話題になった《Level 7 feat.明日の神話》や《Without SAY GOODBYE》でも同様で、思いつきととられかねない彼らの行動とそれを撮る冷静なカメラアイとの二重性が、作品に複雑さを与えている。
2011/05/21(土)(木村覚)
大駱駝艦・壺中天(演出・振付:向雲太郎)『底抜けマンダラ』

会期:2011/05/06~2011/05/15
大駱駝艦スタジオ壺中天[東京都]
最近DVDで『滝沢歌舞伎』を見た。あの〈タッキー〉が主演するジャニーズ流歌舞伎の世界。技量で匹敵できない分、少年たちが見せるのは、観客(ジャニオタ)の期待する「萌え」のヴァリエーション。見得も、下手な駄洒落も、残酷なシーンも、一生懸命な演技のすべては観客が「萌え」るためにある。そのあからさまな目的が舞台をすっきりさせ、自虐的な部分も含め、舞台を重層的にアイロニカルにする。そんななか思ったのは、これは、壺中天の公演にしばしば感じる「すっきりさ」に似ているということだった。白塗りの裸体=異形で踊る点では異なるものの、壺中天に濃密に現われるのは「萌え」と同様のエロティシズムである。そのポイントを否定しないどころかかなり自覚的に活用しているところに、壺中天が日本のダンス界において特異なポジションを獲得しているおもな要因がある、そう言ってもいいだろう。本作でも、そうした壺中天らしいエロがちりばめられていた。これまた毎度のごとく、中学の部活にあるような、同性集団の醸し出す独特の関係性があちこちで展開され、そうした「男子」に失笑する楽しさを、向雲太郎は十分に演出した。ただし、似ているとはいえ、既存の表現の型に固執する「萌え」とは異なり、そうした型の周りに身を置きつつも同時にそれから自由であるのが、壺中天の手口であるはずだ。エロは観客を誘惑するのみならず、さらにどこかへと誘拐する手段のはずで、さてどこ行くのかと期待したのだが、タイトル通り「底抜け」なまま、終幕してしまった。
2011/05/13(金)(木村覚)


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