artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
大倉摩矢子「Mr. 」(『奇妙な物質のささやきII O』)

会期:2011/04/17
テルプシコール[東京都]
予定されていた公演が軒並み延期や中止になっている状況があり、まだまだ「観劇を楽しむ」ムードが復活していない個人的な事情もあるなかで、プレビューを書くのはとても難しいのですが、1本お勧めを。『奇妙な物質のささやきII O』という企画で、大倉摩矢子が踊ります(大倉摩矢子「Mr. 」、4月17日@テルプシコール)。大倉は、若手舞踏家のなかで観客の目を釘付けにできる力をもった一人。ゆっくりと20分かけて前に進むというただそれだけで、十分見応えのある時間をつくってしまう逸材。見て損はありません。この企画もそうなのですが、震災のこの状況で、舞踏系の作家たち(大駱駝艦や大橋可也もかつて舞踏家・和栗由起夫に師事していたことがある)がしぶとく上演を続けていて励まされます。今回のとくに原子力発電所の事故によって、ぼくらがいかに危ない装置に頼って生きてきたかを痛感させられていますが、いっそ、作家たちは、電力会社に頼らない公演の可能性を模索してみてもよいのではないでしょうか。かつて唐十郎は、テント公演の際に、自転車で自家発電して上演したと聞きます。そんな上演のシステム自体を自作する(そうしたことも含めて演劇とみなす)作家がでてきたらいいのに、と夢想します。こんな状況だからこそ発揮される創造性とはいったいどんなものなのか、とぼくは作家の皆さんに猛烈な期待を寄せています。
2011/03/31(木)(木村覚)
鎮西尚一『ring my bells』

会期:2011/03/19~2011/03/25
ポレポレ東中野[東京都]
いま執筆の時点でぼくの鎮西体験は『パンツの穴 キラキラ星みつけた』と『パチンカー奈美』に本作を含めて3本、これらのわずかな判断材料からほとんど当てずっぽうで言うのだが、鎮西作品の本質はミュージカル映画にあるのではないか。『パンツの穴』はまさしくミュージカル映画で、ジャック・ドゥミみたいに野外で登場人物が突然唄いだす。『パチンカー奈美』はミュージカル映画ではないにしても、ある1曲が主人公のギャンブル運を支えるというように、音楽的要素が物語を動かす。なによりミュージカル映画の潜在的な力は「ミュージカルをつくるミュージカル」といった自己反省性にあるはずで、本作『ring my bells』はまさに「音楽をつくる音楽の映画」だ。物語は、男2人が山深い公演で曲を作り、リハーサルを繰り返すなか、図書館司書である幼なじみの女の子が男たちの1人とつきあったり、図書館に毎日やって来る老人と遊んだり、場を揺らす。core of bellsのメンバー2人が出演し、主人公の女の子と唄う彼らの奇怪なレパートリーは重要な要素になっている。幼なじみというだけで、彼らの音楽がさっぱりわからない女の子は、わからないけど歌を口ずさむことで、2人とつながる。core of bellsの強さは「歌」にある。本作はその歌の力を引き出そうとしていた。それに本作では酒もつながりを誘発するアイテム。男2人は山で酒を密造し、女の子は味もわからず老人に勧める。ひとを一瞬でつなぐ歌と酒。そのつなぐ力で物語を転がす分、転がらない状況の持つ可能性へと逸脱することはなかった。そのあたり、同じくcore of bellsとのコラボレーションで映像作品を制作した小林耕平と対照的でもあった。
青春H「ring my bell ~リングマイベル~」
2011/03/25(金)(木村覚)
大橋可也&ダンサーズ+空間現代企画「Action, Sound, Conflict」
会期:2011/03/21
Super Deluxe[東京都]
ノイジーで複雑だが音楽的な理性を感じさせる空間現代の演奏と拮抗するかたちで、大橋可也&ダンサーズのダンサーたちは舞台に存在していた。「拮抗」とは、安易に従属せず、独立していたという意味で、上演後1日経ってから不意に「ああ、大橋可也のダンスはマース・カニングハムに似ている!」と思ったこととも連続している。各ダンサーたちがヒエラルキーを構成することなく存在し、それでありながら、すべてのダンサーがある共通の方法論のもとで動いているように見える。ポスト・モダンダンスならば、もっとラディカルに反ダンスを批評的に展開するだろう。モダンダンスならば、もっと無批判的にスタイル化への指向を示すだろう。カニングハムはその中間にいた。カニングハムは前衛的なダンスの可能性を追求しながら、ダンスのダンス性を放棄しない。どっちつかずともいえるが、二つを両立させようとする試みにも映る。大橋からも同じニュアンスを最近感じる。本作でも、夢遊病者のように空間をさまようダンサーたちは、無秩序のようで、しっかりと振り付けられており、暴力的なイメージが喚起されたとしても、そこにはつねに様式的な美しさがある。様式的美しさは、バレエと比較したくなるほどで(この点もカニングハムに似ている)、それが作品としての強度を引き出す分、美しさへの批評的なスタンスを弱めてしまってもいる。けれども、どちらか一方が全面的に正解というのでないとすれば、このどっちつかずから豊かな可能性を展開するのが得策であるに違いなく、いまは「様式美」が目立つとしても、今後、ある種の弁証法的な進展が大橋のダンスの内に起きることを期待している。ちなみに、この企画ではほかに、OFFSEASON featuring 大橋可也&ダンサーズ、 ロロ、core of bellsらの上演が行われた。
大橋可也&ダンサーズ+空間現代
OFFSEASON featuring Kakuya Ohashi and Dancers
2011/03/21(月)(木村覚)
大駱駝艦『灰の人』

会期:2011/03/17~2011/03/21
世田谷パブリックシアター[東京都]
3.11に未曾有の大地震と大津波が起き、その間、ぼくはほとんど外出せず、家族とシェルターに暮らすかのごとくひっそり生きていた。「計画停電」という名の短時間の停電が関東でもあり、ときには大停電の危険もアナウンスされた。そんな10日が過ぎた。「観劇どころではない」という気分は拭えぬまま、暖房もなく照明も減らされた、寒く暗い電車に乗って三軒茶屋へ。街中で荷物運びをしている人を見るだけで、被災地の映像を連想してしまうメンタリティからすると、震災のメタファーだと思わずにはいられないタイトルの『灰の人』(このタイトルはいうまでもなく震災以前につけられていたものではある)。以上の文章から察してもらえるように、正直ぼくの精神状態は観劇にふさわしいものではなかった。その事実は無視できないとはいえ、ぼくがこれまで見た彼らの公演のなかで、本作は最良の作品に思われた。
なびく髪に赤い火の粉のついた女がマッチを擦り、火を灰の円に落とす。やがて二人の男たちが火箸らしき棒をくわえ、不敵な笑みを見せたかと思うと、2本の箸の先を合わせ、器用に歩いたりする。この者たちは、麿赤兒が演じる男(ときに「翁」に見える)にこの箸を突き刺し、エンディングを引き寄せることになる。この一種の「父殺し」が本作のベースになっていることは、大駱駝艦の師弟関係が背景に透けて見えることも手伝って、説得力がある。と同時に、そうした世代交替劇(?)も含め「自然の摂理」が本作の大きなテーマになっていたことは、彼らの取り組みがスケールの大きいものであることを示していた。「津波」のように巨大な黒い布が人々を覆い尽くすシーンなどは、その一例。自然の過酷さとのコントラストによって、人の身体の美しさが際立つ。とくにキャスターの付いた大きな円卓状のオブジェの内側に、12人ほどのダンサーたちがほぼ全裸の白塗り状態で入り、うごめきながら舞台の上を右に左に進んだシーンは、その美しさと官能性において圧巻だった。大駱駝艦の追求してきた群舞の魅力が、たんに自由に踊るのではなく、オブジェの導入によって、ダンサーの動きに枷がはめられ、それによって、独特のエロティシズムが引き出されていた。さらに人と自然とを、シュルレアリスティックなイメージでつないだのが、火鉢だった。真ん中におかれた火鉢は、ちっぽけな地球に見え、また奇想天外なものたちの詰まった壺のようでもあって、そうしたイメージのダイナミズムもきわめて効果的だった。
2011/03/21(月)(木村覚)
風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから

会期:2011/03/08~2011/06/05
国立国際美術館[大阪府]
西洋美術史の文脈とは異なる視点から、現代の日本やアジアで活動するコンセプチュアルな作風のアーティストたちをピックアップした展覧会。1960年代から関西を拠点に活動しているプレイ、ダンスとも喧嘩ともつかないパフォーマンスで知られるcontact Gonzoをはじめ、島袋道浩、木村友紀、ヤン・ヘギュ、ディン・Q・レーら9組の作家が紹介された。どの作品にも、かつてのコンセプチュアル・アートにありがちな上から目線の難解さや近寄り難さは感じられない。むしろわれわれと同じ目線、同じ言葉で語りかけてくるので、スムーズに作品の世界へと入っていけるのだ。担当学芸員は本展を読み解くキーワードとして、スピードの遅さ、ローカリティー、日常との緩やかなつながり、を挙げていた。とても風変わりな企画展だが、本展のような機会が増えれば、現代アート展は今までよりずっと身近なものになるだろう。
2011/03/07(月)(小吹隆文)


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