artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
東野祥子『I am aroused..............Inside woman』

会期:2010/07/31~2010/08/01
世田谷美術館[東京都]
「くぬぎ広場」と称する世田谷美術館の裏庭が会場。歴史的な暑さの夏の夜。おつまみやビールが販売されるミニ「野外ライブ」みたいなリラックスした場に、東野祥子はサイレント映画的イメージを持ち込んだ。プロジェクターを駆使して、巨大な映像が芝生や建物の壁面に映される。そこに、強烈に速くまた奇妙なカーブを描く東野のダンスが紛れ込む。すると東野が、回転数の速いサイレント映画のなかの人物のように見えてくる。ダンスというのは、踊れれば踊れるほどその身体の正常さが現われるもの。そうした正常さは東野の妄想するダークで奇っ怪なイメージとなかなかかみ合わない。東野の試みの難しさはここにある、とぼくはつねづね思っていた。映像のなかの人物と目の前のダンサーを錯覚するといった今回の趣向は、その難しさを少し軽減する効果があった。ただ「サイレント映画的」と形容してみたように、センスが1920年頃に設定されていて(レジェの『バレエ・メカニック』をリミックスしたような映像が用いられるなど)、それがぼくには個人的な趣味に映ったのだけれど、そうなのだろうか。懐古趣味というよりも、目の前の身体以上に映像に映された身体こそリアルに感じる今日のぼくたちの認識こそがテーマになるべきで、しかし、今後東野作品のなかでそうした事柄が展開されるかもしれないという予感を強く受けた公演だった。
2010/08/01(日)(木村覚)
プレビュー:平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)『森の奥』/東京デスロック『2001-2010年宇宙の旅』
平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)の『森の奥』がおすすめです。類人猿ボノボを人間化しようとする人間とロボットのお話。演劇は人間が演じなくても可能か?という問いに対する平田のひとつの解答が示されるはず。必見です。ただし、これはあいちトリエンナーレ2010の関連公演なので、名古屋に行かないと見られません。
もうひとつのおすすめは東京デスロックの『2001-2010年宇宙の旅』。音楽に大谷能生を迎え、即興という点で音楽と演劇は重なるところが多いのではないか、という問いが本作の発端だそう。どんどんクロスジャンル化していく今日の舞台芸術において、そうした姿勢が表明されているということは、期待したくなるというものです。しかし、これも会場は富士見市文化会館キラリ☆ふじみなので、都心からは離れています。いっそ8月は旅心とともに観劇してみてはいかがでしょう。
2010/07/31(土)(木村覚)
川戸由紀+小林耕平『川戸由紀と小林耕平』

会期:2010/07/20~2010/07/31
ギャラリーかれん[神奈川県]
近年しばしば目にする美術作家といわゆる「アウトサイダー」な作家の作品を併置する展覧会のひとつと言えば確かにそうなのだけれど、川戸由紀の絵や刺繍の圧倒的な魅力を直に目にしてしまうと、その作者が(美術作家であるかどうかはもちろんのこと)美術作家でないかどうかなどどうでもよくなってしまう。
テレビで見かける「お天気カメラ」の定点観測映像をモチーフに、新宿などの都市の景色が、コマ撮りのように少しずつ位置がずらされながら、何枚も描かれる。見たことのある景色なのだが、見たことのない感触が画中に漂っている。鉛筆の描線はすっきりしていて静か。見る者(描く者)と景色とのあいだには一定の距離が保たれている。ただしそれは単に遠さを感じさせるというよりも、なにかしらしかるべき関係の成立にとって必要な条件のように感じられる。さて、ではその「しかるべき関係」とはなにをさすか。ぼくの思うに観客(=川戸)と舞台(=景色)との関係である。例えば、新宿の景色に突拍子もなく、ディズニーキャラクターの一団がマッチ棒のように細長くされた状態で賑々しく見る者に眼差しを向けている絵は、その観客ー舞台の距離設定がなぜ画中に生まれているかを明かすポイントと言えるだろう。川戸の絵には、静かだけれど熱いコール・アンド・レスポンスが展開されている。絵のミュージカル化と言ってもいいかもしれない。
刺繍の作品に目を転じると、ディズニー・ショーのエンディングでキャラクターが横並びになっている様子が描かれている。それも示唆的なのだが、それ以上に重要なのは、はがきサイズの布に身近な品々が刺繍され(ex.スイカ)たものだろう。図柄の上下に文字で例えば「せーのスイカ」などと縫い込まれている。「せーの」「いくよ」「いくぞ」「(大きな)こえで」などの呼びかけは、工房のスタッフの方によれば、テレビ番組「おかあさんといっしょ」のステージで歌の前に観客にかける呼び声がもとらしい。「自閉の人のなかで起こっている熱いコミュニケーションへの思い」と解釈できなくはない。けれども、むしろ美術作家/アウトサイダー作家の境界線をこえて、また同じく「いくぞ」というかけ声を美術の分野に持ち込んだ遠藤一郎と並べたりなどしながら、川戸の絵や刺繍の魅力にもっと巻き込まれてみようと思う。
2010/07/28(水)(木村覚)
プレビュー:あいちトリエンナーレ2010

会期:2010/08/21~2010/10/31
愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場[愛知県]
越後妻有のキーワードが「地方」と「農村」、瀬戸内国際芸術祭のそれが「離島」と「リゾート」なら、あいちトリエンナーレは「都市」と「祝祭」のアートイベントになるだろう。名古屋の都心部に集中的に会場を配し、国内外の約130組のアーティストが新作を次々と発表。アートを通じた一過性のハレの空間が夏の名古屋に出現するのだ。ビジュアル・アートとパフォーマンス・アートの比重が拮抗しているのも他のアートイベントにはない特徴だ。自然回帰やゆとり志向とは逆ベクトルの、ウェルメイドな都市型アートイベントとしてどのような評価を獲得するのか、今から楽しみだ。
2010/07/20(火)(小吹隆文)
瀬戸内国際芸術祭 2010

会期:2010/07/19~2010/10/31
瀬戸内海の7つの島と高松港[香川県、岡山県]
注目のアートイベントにさっそく足を運んだ。2日間フル稼働で取材したが、女木島、男木島、小豆島、豊島と高松港を回るのが精一杯。直島、犬島、大島は後日に持ち越しとなった。すべての会場を巡るには1週間ぐらい必要だろう。真夏の瀬戸内は高温多湿で日差しがきついため体力的にはハードだったが、精神的にはとても充実した2日間だった。瀬戸内と聞くとつい海ばかりを連想してしまうが、実際は海岸部だけでなく、内陸部でも数多くの展示が行われていた。地域の自然、生活、文化、習俗とアートが密接に交流し、美術館やギャラリーでは味わえない広がりのあるアート体験ができた。1回目から完成度の高いイベントに仕上げてきた関係者に賛辞を送りたい。今後もさらに充実を図り、越後妻有と並んで日本を代表する地域密着型アートイベントとなることを期待する。なお、筆者のおすすめは、小豆島の王文志と岸本真之、女木島のロルフ・ユリアス、男木島の中西中井、豊島のキャメロン・ロビンスとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーだ。
2010/07/18(日)・19(月)(小吹隆文)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)