2019年09月15日号
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artscapeレビュー

川戸由紀+小林耕平『川戸由紀と小林耕平』

2010年08月01日号

会期:2010/07/20~2010/07/31

ギャラリーかれん[神奈川県]

近年しばしば目にする美術作家といわゆる「アウトサイダー」な作家の作品を併置する展覧会のひとつと言えば確かにそうなのだけれど、川戸由紀の絵や刺繍の圧倒的な魅力を直に目にしてしまうと、その作者が(美術作家であるかどうかはもちろんのこと)美術作家でないかどうかなどどうでもよくなってしまう。
 テレビで見かける「お天気カメラ」の定点観測映像をモチーフに、新宿などの都市の景色が、コマ撮りのように少しずつ位置がずらされながら、何枚も描かれる。見たことのある景色なのだが、見たことのない感触が画中に漂っている。鉛筆の描線はすっきりしていて静か。見る者(描く者)と景色とのあいだには一定の距離が保たれている。ただしそれは単に遠さを感じさせるというよりも、なにかしらしかるべき関係の成立にとって必要な条件のように感じられる。さて、ではその「しかるべき関係」とはなにをさすか。ぼくの思うに観客(=川戸)と舞台(=景色)との関係である。例えば、新宿の景色に突拍子もなく、ディズニーキャラクターの一団がマッチ棒のように細長くされた状態で賑々しく見る者に眼差しを向けている絵は、その観客ー舞台の距離設定がなぜ画中に生まれているかを明かすポイントと言えるだろう。川戸の絵には、静かだけれど熱いコール・アンド・レスポンスが展開されている。絵のミュージカル化と言ってもいいかもしれない。
 刺繍の作品に目を転じると、ディズニー・ショーのエンディングでキャラクターが横並びになっている様子が描かれている。それも示唆的なのだが、それ以上に重要なのは、はがきサイズの布に身近な品々が刺繍され(ex.スイカ)たものだろう。図柄の上下に文字で例えば「せーのスイカ」などと縫い込まれている。「せーの」「いくよ」「いくぞ」「(大きな)こえで」などの呼びかけは、工房のスタッフの方によれば、テレビ番組「おかあさんといっしょ」のステージで歌の前に観客にかける呼び声がもとらしい。「自閉の人のなかで起こっている熱いコミュニケーションへの思い」と解釈できなくはない。けれども、むしろ美術作家/アウトサイダー作家の境界線をこえて、また同じく「いくぞ」というかけ声を美術の分野に持ち込んだ遠藤一郎と並べたりなどしながら、川戸の絵や刺繍の魅力にもっと巻き込まれてみようと思う。

2010/07/28(水)(木村覚)

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