artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
森山大道展「記録33号」
会期:2017/02/01~2017/02/19
六本木ヒルズA/Dギャラリー[東京都]
粒子が粗く明暗のコントラストの強いモノクロ写真の展示。まあ要するにいかにも大道的写真なのだが、タイトルの「記録33号」ってなんだろう? じつはこれ、「今日一日に写したカットだけで一冊『記録』を作ってみたい」というコンセプトに基づいた写真集『記録』の最新巻33号より、2016年10月29日の池袋を撮った作品なのだ。モノクロで、しかも場末の風景が多いせいか、2、30年前の写真かと思った。
2017/02/03(金)(村田真)
松永繁写真展 汀線(みぎわせん)
会期:2017/01/31~2017/02/12
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
空、海、砂浜、岩などで構成される海岸線を、中判カメラによる長時間露光で捉えた銀塩モノクロプリントが並んでいた。波は形態を失い、白いガスがかかったような状態に。そして空も天候や時間帯が判然としないため、時空を超越した神話的情景を見ている気分にさせられる。少し脱線するが、映画『プロメテウス』にこんな場面があったような気がする。この例えは誤解を与えかねないが、それほどまでに特異な世界観の表現に成功しているということだ。作者の松永繁は2010年から日本各地の海岸線を訪れてこのシリーズを撮影しているが、画廊での個展は今回が初めてだという。オリジナリティーと技術は十分あるので、今後は精力的に個展活動を行なってほしい。
2017/02/03(金)(小吹隆文)
第14回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展 佐藤麻優子展 ようかいよくまみれ
会期:2017/01/31~2017/02/17
ガーディアン・ガーデン[東京都]
2016年の第14回写真「1_WALL」展でグランプリを受賞した佐藤麻優子の受賞者個展である。受賞のときから、その一見ノンシャランな作品のあり方には賛否両論があり、個展としてきちんと成立するかどうかという危惧もあったのだが、結果的にはとても面白い展示になった。彼女の本領発揮というべきだろうか。のびやかな構想力と脱力感が共存するとともに、被写体となる人たちとの絶妙な距離の取り方が魅力的だ。
展示の全体は、「ただただ」、「まだ若い身体です」、「もうない」、「夜用」、「その他」の5つのパートに分けられている。ただ、それぞれのパートの作品に、それほど大きな違いがあるわけではない。彼女と同世代の女性の友人たちが、ゆるゆると、思いつきとしか見えないパフォーマンスを繰り広げている場面をフィルムカメラで撮影した写真が、淡々と並んでいる。基調となっているのは、「焦り、不安、無気力感」(「ただただ」)、「満たされなさ、悲しさ、寂しさ」(「まだ若い身体です」)といった、どちらかといえばネガティブな感情なのだが、それもそれほどシビアな切実感を伴うものではない。それでも全体を通してみると、2017年現在の東京の、どこか足元から崩れてしまいそうな予感を秘めた閉塞感、不安定感が、きちんと(むしろ批評的な視点で)写り込んでいる。23歳の「若い身体」をアンテナにして、全方位で末期資本主義の「よくまみれ」の世界のあり方を写真に取り込もうとする意欲が伝わる気持のいい展示だった。意外とこのあたりに、次世代の写真表現の芽生えがあるのかもしれない。
2017/02/02(木)(飯沢耕太郎)
showcase #番外:スナップショット、それぞれの日々
会期:2017/01/25~2017/02/05
gallery Main[京都府]
同展は、同志社大学教授で気鋭の美術評論家でもある清水穣が企画しているシリーズ企画の番外編である。これまでは八坂神社に程近いeN artsを会場とし、若手作家の紹介を旨としてきたが、今回は会場が麩屋町五条のギャラリーMainに変更され、作家のセレクトも、写真家の麥生田兵吾といくしゅんに加え、ベテラン美術家の中川佳宣がラインアップされている。しかも3人の作品がキャプションなしに混ぜこぜで展示されているのだ。本展のテーマは「スナップショット」。いつ、誰が、どこで、何を、どんな機材で撮っても成立するスナップショットを匿名で提示することにより、その表現方法を有効にしているものは何か、あるいは、人は何を拠りどころにして他者や世界と向き合っているのかを、観客に考えさえようとしたのだ。実際、ずらりと並ぶ匿名の作品を前にしていると、無意識のうちに作品を分類し、意味づけを行なおうとしている自分に気付いた。頭と眼の垢落としのためにも、定期的にこういう企画があるとありがたい。
2017/01/31(火)(小吹隆文)
呉在雄 / Oh Jaewoong「Bougé: 持続の瞬間」
会期:2017/01/24~2017/02/05
呉在雄は1975年、韓国・ソウル生まれ。現在、東京工芸大学大学院芸術研究科メディアアート専攻に在籍しており、今回の個展からTOTEM POLE PHOTO GALLERYのメンバーの一人として活動するようになった。今回展示された「持続の瞬間」は5年前から撮り続けているシリーズで、井の頭公園や小金井公園の樹木に6×6判のカメラを向け、揺れ騒ぐ樹々の枝をフレームにおさめてシャッターを切っている。60分の1秒ほどのシャッタースピードなので、長時間露光というほどではないのだが、風の強い日だと枝は相当に揺れ動いて、ブレが生じてくる。その不定形のフォルムと、枝と枝との間の空白の部分との関係に神経が行き届いていて、じっと見つめていると画面に吸い込まれていくような感覚を味わうことができた。
呉がこのような作品を撮り始めたきっかけは、留学先の日本での生活に疎外感や孤独感を感じることが多く、そんなときに公園に出かけて、樹を眺めていることが多かったからだという。風に揺れる枝に自分の思いを託しつつ、シャッターを切っていたということだろう。韓国の現代写真家たちの作品を見ていると、長時間にわたって風景に対峙し、対話することで、純化された、瞑想的とさえいえそうな境地に達しているものがかなりたくさんあることに気がつく。日本でも何度か展示されたことのある、 炳雨(ベー・ビョンウ)の「松(ソナム)」シリーズなどもその一例である。呉のこのシリーズも、そんな作品に成長していく可能性があるのではないだろうか。
2017/01/31(火)(飯沢耕太郎)