artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN

会期:2017/01/04~2017/02/28

横浜美術館[神奈川県]

平日の昼間なのにけっこうな混み具合。チケット売り場の前には列ができている。横浜美術館としては珍しいことだ。エスカレータで昇って正面の壁に、ポスターや宣材に使われたジョンとヨーコの接吻写真。よく見るとふたりともあんまりやる気なさそうだ。最初の部屋は暗い。壁が黒くて写真(巨大プリント)にだけ照明が当てられている。モデルは美空ひばり、夏目雅子、三島由紀夫、渥美清らで、この部屋のテーマは「ゴッド」。みなさん死者ですね。怖いのは美空ひばりの写真で、本人の右に大きな仏壇、左上には母や弟ら親族の遺影が入った黒縁の額が写ってる。画中画ならぬ写真中写真というか、この部屋の黒い壁が一種の黒枠みたいなもんだから、遺影中遺影というべきか。イエイ! ちなみにひばりの写真は粒子の粗さが目立つが、1970年に自害した三島はもちろん、ひばりも夏目もデジタルカメラで撮られたことはなかったはず。彼らはみんな光学時代の神々なのだ。だからなんだ? といわれても、へえそうなんだ! と納得するだけですが。ともあれ、これ以降の部屋に比べても、この部屋は死臭に満ちている。
この後、ピンク・レディー、北野武、南沙織、安室奈美恵、長嶋茂雄、山口百恵、檀蜜ら「スター」のポートレートが続き、歌舞伎とディズニーランドを撮った「スペクタクル」の部屋へ。これは華やか、このケレン味がいちばん紀信らしいかも。これを見ると蜷川実花が紀信の正統な後継者であることがわかる。ひとつ提案だが、ディズニーランドの登場人物や、次の部屋の大相撲の関取たちを撮ってつなげたパノラマ的写真(「シノラマ」なんて呼んでいた)は、継ぎ目が歪んで不自然なので、3曲か4曲の屏風仕立てにしたらどうだろう? 似合うと思う。その次が、大相撲のほか、宮沢りえ、樋口可南子らのヌードがある「ボディ」の部屋で、ここがいちばん混んでいた。そして最後が「アクシデンツ」と題して、被災地を背景にした名もなき被災者たちのモノクロポートレートの部屋。前室の混雑がウソのようにみんなそそくさと去っていく。実際この最後の部屋はとってつけたようにしか感じられなかった。

2017/02/24(金)(村田真)

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普後均「肉体と鉄棒」

会期:2017/02/15~2017/02/25

ときの忘れもの[東京都]

「肉体と鉄棒」というのはなかなか面白いタイトルだ。ある日突然、普後均にそのタイトルが「降りてきた」のだという。すぐに近くの鉄工所に赴き、「高さも幅も2mほどの組み立て式の鉄棒を作ってもらった」。タイトルが先に決まるというのは、特に珍しいことではないが、そこから作品に落とし込んでいくときには、周到で注意深い操作が必要になる。普後は、まず新品の鉄棒を数年間自宅の外に放置して錆びさせ、2003年頃からようやく撮影にとりかかった。それから10年以上をかけて、少しずつ数を増やしていったのがこの「肉体と鉄棒」のシリーズである。会場には深みのあるトーンのモノクローム印画、17点が展示されていた。
鉄棒にはさまざまなものが乗ったり、ぶら下がったりしている。ヌードの女性もいるし、バレーシューズを履いた脚、猿、蛇、カタツムリなどの生きもの、氷や医療用器具まである。それらの取り合わせは、当たり前のようでいて、そうではないぎりぎりの選択がされており、ピンと張り詰めた緊張感を覚える。とはいいながら、融通無碍で、どこかユーモラスでもあるのが面白い。ほぼ同時期に撮影していた、貯水槽の丸い蓋の上にさまざまな人物たちを配置する『ON THE CIRCLE』(赤々舎、2012)のシリーズでもそうなのだが、普後は演劇的なシチュエーションを緻密に構築していくことに、独特の才能を発揮しつつあるようだ。このシリーズもぜひ写真集にまとめてほしい。同時に、彼が次にどんな写真の舞台を設定するのかが、とても楽しみになってきた。

2017/02/23(木)(飯沢耕太郎)

佐伯慎亮個展「リバーサイド」

会期:2017/02/18~2017/02/26

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

関西を拠点に活動する気鋭の若手写真家が、今年1月に刊行した写真集『リバーサイド』の収録作品を中心とした個展を開催した。展示は2つの部屋で構成されている。入口を入ってすぐの広い部屋には、パネル貼りした大小の写真作品が、ランダムながらも一定の秩序を持って並び、室内中央には天井から吊った立方体(6面のうち4面に作品が貼ってある)がゆっくり回転している。一方、奥の小部屋は、ソファー、センターテーブル、スタンドライト、カーペットが配され、壁面は雑貨や佐伯の子どもたちが描いた絵、工作物などで埋め尽くされていた。また、センターテーブルには佐伯がこれまでに発行した写真集が置いてあった。インスタレーション兼ビューイングルームといったところか。つまりこの2室は、写真家と家庭人、あるいは作品とその苗床としてのプライベートを対比的に示していたのだ。さて肝心の作品だが、いずれも家族や自然を瑞々しく捉えたもので、生命や日々の生活を愛おしむ視点が貫かれていた。また会場で交わした会話のなかで、佐伯の実家が寺であり、彼自身も僧侶の勉強をしたことがあると聞き、彼の作品のベースに仏教的死生観があることも実感した。

2017/02/21(火)(小吹隆文)

田淵三菜『into the forest』

発行:入江泰吉記念写真賞実行委員会

発行日:2017年2月7日

期せずして、ビジュアルアーツアワードを受け継ぐようなかたちで、入江泰吉記念奈良市写真美術館が主催する入江泰吉記念写真賞が、第2回目にあたる今回からグランプリ受賞者の写真集を刊行することになった。「写真集をつくる」ということが、日本の写真家たちの大きな目標になってきたことは間違いないが、特に若い写真家たちにとっては、経済的な理由なども含めてハードルが高い。このような企画の存在意義は、すぐにはあらわれてこないかもしれない。だが、長い目で見れば、クオリティの高い写真集が残っていくことの意味は、計り知れないほど大きいのではないだろうか。
今回、101点の応募のなかから受賞作に選ばれたのは、1989年生まれの田淵三菜の「into the forest」だった。1年間、群馬県北軽井沢、浅間山の麓の森の近くにある山小屋に住みついて撮影した写真を、ひと月ずつ区切って並べている。冬から春、夏、秋を経て、再び冬へ、季節の移り変わりとともに次々に目の前にあらわれてくる森の植物や生きものたちの姿を、光や風とともに、文字通り全身で受けとめて投げ返した、みずみずしい写真群だ。これまた新世代の手による、まったく新しい発想と方法論の「自然写真」の芽生えを感じさせる作品といえるだろう。
写真集の造本は町口覚。マット系の用紙の選択、折り返しの写真ページを巧みに使ったレイアウトが鮮やかに決まった。『Daido Moriyama: Odasaku』もそうだが、このところの町口のデザインワークは水際立っている。なお、入江泰吉記念奈良市写真美術館では、2月7日~4月9日に受賞作品展として田淵三菜「into the forest」が開催される。

2017/02/21(火)(飯沢耕太郎)

プレビュー:森山大道写真展「Odasaku」

会期:2017/04/21~2017/05/21

ギャラリー176[大阪府]

『夫婦善哉』などで知られる無頼派の小説家、織田作之助(1913~1947)の短編小説『競馬』に、写真家の森山大道が大阪で撮影した写真作品を交錯させた書物『Daido Moriyama:Odasaku』。同書は、グラフィックデザイナー/パブリッシャーの町口覚による森山大道×日本近代文学のプロジェクトで、太宰治、寺山修司に続く第3弾となる。出版を記念して行なわれる本展では、書籍に収録された写真作品と、展示に合わせて新たに制作したシルクスクリーン作品を展覧する。写真と近代文学のコラボレーションという斬新な切り口は、双方のジャンルにどのような影響を与えるのだろうか。また、森山と織田は共に大阪出身であり、両者のハーモニーがどのようなかたちで現われるかにも注目したい。規模こそ小さいものの、見逃せない機会である。ちなみに今年は織田作之助の没後70年に当たる。

2017/02/20(月)(小吹隆文)