artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

橋本陽子写真展「ラビリンス」

会期:2016/12/06~2017/12/18

ギャラリー・ソラリス[大阪府]

少女から大人へ向かう10代後半から20代前半の女性を約8年間にわたって撮影。大小さまざまなサイズにプリントした写真30数点を、インスタレーションとして展示した。最初は一人の少女を追った作品だと思ったが、よく見ると複数の人物が混ざっている。しかし、ドキュメントか否かは大した問題ではない。作家の被写体に対する眼差しには、その年代の同性に対する憧憬が感じられ、なるほど女性にしか撮れない写真だと感心した。同性を撮影する場合、あえて辛口な視点を採用する方法もあるだろう。しかし本作では、過渡期の女性が放つ刹那の美への共感が前面に出ており、それが作品に繊細さや品の良さを与えていたと思う。作家はこれまでグループ展で活動しており、個展は今回が初めて。それにしては展示構成もそつなくまとめており、好スタートと言えるだろう。いつになるかは分からないが、次の個展を楽しみにしている。

2016/12/17(土)(小吹隆文)

宇野真由子写真展「root」

会期:2016/12/13~2016/12/18

フォトギャラリー壹燈舎[大阪府]

作者は北海道釧路市周辺の出身で、大学時代を名古屋で過ごし、卒業後に大阪でカメラマンになった。その後沖縄に移住した時期もあったが、現在は再び大阪でカメラマンをしている。本展の作品は故郷の冬景色を撮影したものだ。釧路市の辺りは冬でも積雪が少なく、風が吹くと雪が舞い上がって霧がかかったようになるという。本展の作品にもそのような情景がいくつもあった。また、冬特有の乾いた光をハレーション気味に表現した作品もあった。作者は子供の頃から早く都会に出たいと思っていたという。しかし、最近になって地元の美しさに気付いたそうだ。自分自身を振り返っても、故郷とはそういうものかも知れない。今後も制作を継続して、美しい故郷を見せてほしい。

2016/12/17(土)(小吹隆文)

第2回南相馬ワークショップ

会期:2016/12/16

南相馬市集会所[宮城県]

塔と壁画のある集会所の南相馬の仮設住宅地にて、ワークショップを開催した。巨大な壁画を描いた彦坂尚嘉を迎え、その思いを語ってもらう。またあらかじめ住民に使い捨てカメラ「写ルンです」を配布し、暮らしの風景を撮影してもらい、糸崎公朗によるフォトモのワークショップを行なう。それぞれの風景が立体化され、住民の記憶に刻まれた。なお、ここはすでに前の週に自治組織の解散式を終えたが、まだ暮らす人は残り、建物は使われる。

2016/12/16(金)(五十嵐太郎)

ようこそ!横尾温泉郷

会期:2016/12/17~2017/03/26

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

お風呂が恋しい季節に合わせて、横尾忠則が銭湯や温泉を描いた絵画、版画、ポスターが集められた。展示の主体になったのは2つのシリーズ。ひとつは2004年に元銭湯の画廊SCAI THE BATHHOUSEで個展を行なった際に発表した「銭湯シリーズ」、もうひとつは2005年から約3年間にわたる誌連載のために描かれた「温泉シリーズ」だ。その合間に、1970年代から現代までの全国各地を描いた作品も配置された。筆者が注目したのは「銭湯シリーズ」である。横尾が子供の頃に母に連れられて入った女湯の記憶を元にした同作では、画中に鳥居清永、ピカソ、ドローネ、デュシャンらの引用が散りばめられており、作品の上下左右が繋がるように描かれるなど仕掛けが満載だった。また本展では城崎温泉などから協力を仰ぎ、会場内に蛇口、洗面器、脱衣籠、脱衣箱、扇風機、体重計などが配置され、観客が座って観覧できる座敷や浴槽、さらには温泉卓球ができる卓球台まで用意されていた。こうした演出もあり、本展は非常に楽しい展覧会に仕上がっていたのだが、記者発表時には横尾からは「まだまだ遊びが足りない」と駄目出しが出ていた。学芸員はつらいよ。でも、毎回作家から厳しいチェックを受けることで、彼らは鍛えられていると思う。

2016/12/16(金)(小吹隆文)

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蔵真墨「Men are Beautiful」

会期:2016/12/10~2017/01/28

nap gallery[東京都]

明らかにゲイリー・ウィノグランドの名作『Women are Beautiful』(1975)を意識したタイトル。だが蔵真墨のこのシリーズは、路上スナップということ以外にはあまり共通性がない。アメリカの、白人の、魅力的な若い女性、つまりウィノグランド本人の性的な嗜好を、ぬけぬけと打ち出して撮影した『Women are Beautiful』に対して、蔵の「Men are Beautiful」は、たしかに彼女にとっての異性を被写体に選んではいるが、その選択の幅はかなり広い。いわゆる「イケメン」だけではなく、中年の男性や少年を含み、撮影場所も東京が中心だが、パリやニューヨークやメキシコ・シティーの写真もある。撮り方も、モノクロームのスナップショットの美学を隅々まで貫くウィノグランドに対して、かなり場当たり的でいい加減だ。肝心の「男」がどこに写っているのかほとんどわからないようなロングショットもある。
となると、蔵がどんな基準で「男」を選んでいるかが気になってくる。展覧会にあわせてクラウドファンディングで刊行されたという同名の写真集(Urgent Press)で、彼女はそのことについて「異性としての魅力だけでない何か人としてのきらめき」と書いている。これだけでは曖昧でよくわからないが、写真と照らし合わせてみると、少しずつ彼女なりの尺度が見えてくる。「人としてのきらめき」というのは、生命体そのものから発するオーラのようなものではないだろうか。国籍や年齢や顔立ちや体型を超えた(別に無視するというわけではないが)「何か」を路上で感じとったときに、蔵は躊躇なくシャッターを切っているということだ。「男」という縛りは、逆にそののびやかで自由なスナップショットへの向き合い方を確保するために設定されているように思える。
写真集の出版で一応の区切りはついたようだが、味わい深いシリーズとして育ちつつあるので、もう少しこの先を見てみたい。

2016/12/16(金)(飯沢耕太郎)