artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

原田晋「The Ghost」

会期:2011/04/16~2011/05/07

art & river bank[東京都]

本展のキュレーションを担当した友岡あゆ子が、リーフレットに東日本大震災後にテレビで放映され続けた被災地の映像について書いている。最初の頃は衝撃的な映像に心を痛めていたのだが、次第に見続けることに疲労感を覚えていく。「繰り返し放送されることで、実際に被災していない人が精神的なダメージを受けてしまう」ということも起こってくる。たしかに、日々とめどなくテレビの画面から送り届けられる映像に晒され続けていると、心身が麻痺状態に陥っていくように感じる。それはたしかに、さまざまな刺激を与えてくれるよくできたスペクタクルなのだが、反面あらゆる情報が寸断され、等価値に並べ替えられてしまうということでもある。現実感の喪失や無感動状態、また逆に過剰反応による「精神的なダメージ」が、そこから生じてくるのだ。
原田晋が2002年の初個展「window-scape...face」(Space Kobo & Tomo)以来ずっと試みてきたのは、この垂れ流し状態のテレビの画面を写真で撮影することで「逆操作」しようとする試みだった。動画が静止画像に変換され、さらにコラージュ的に再構成されることで、テレビを見ている時には気がつかなかった、映像そのものの無意識や身体性のようなものが浮かび上がってくる。その「逆操作」の手つきは、個展の開催を積み重ねることで、より洗練されたものになっていった。今回の5台のテレビモニターで作品を上映する「Ghost」では、画面の切り替えの速度をコントロールすることで、むしろ麻痺状態や「精神的ダメージ」を強化してしまうようなインスタレーションが設定されている。ただ、ザッピングされている映像がおおむね美しく穏当なものなので、その試みがまだ中途半端に終わっていることが惜しまれる。映像の強度をもっと上げて、観客に暴力的な揺さぶりを掛けるような仕掛けを、本気でつくってみてはどうだろうか。

2011/04/27(水)(飯沢耕太郎)

澄毅「光」

会期:2011/04/22~2011/04/28

Port Gallery T[大阪府]

その「写真新世紀大阪展」で佳作入賞者として作品が展示された澄毅(すみ・たけし)の個展が、大阪・京町堀のPort Gallery Tで開催されていたのでそちらも見てきた。
「光」と題されたシリーズは、A0の大判サイズのプリント2点とA1サイズのプリント15点で、壁にピンで止められている。澄の呉市在住の祖父は戦艦大和の建造にもたずさわった技術者で、広島の原爆投下も目撃しているのだという。その祖父の写真アルバムに貼られた写真を複写して画用紙にプリントし、被写体の輪郭をなぞるように小さな穴をたくさんあける。その裏側から光をあてて、それが白っぽい点の集合として見えてくる様を撮影した写真が、このシリーズの骨格を形成している。古い写真が現実の光に晒されることで、あらたな生命力を得て再生しているといえるだろう。さらに澄自身の身辺を撮影した写真を合わせることで、過去と現在、記憶と現実とが混じり合い、溶け合うような効果が生じる。同じテーマで制作された映像作品(約8分)も含めて、よく練り上げられたコンセプトがきちんと形になったいい作品だと思う。
ただ、会場のインスタレーションにはもう一工夫必要だろう。A1サイズのプリントは、大きさや展示の仕方がやや中途半端に感じる。もう一回り小さなサイズにするなど、アルバムのページをめくっていくような親密な雰囲気を大事にした方がいいと思う。

2011/04/23(土)(飯沢耕太郎)

写真新世紀大阪展 2011

会期:2011/04/05~2011/04/27

アートコートギャラリー[大阪府]

東日本大震災を経ることで、作品の見え方が変わってくることがある。2010年度の「写真新世紀展」は昨年11月に東京都写真美術館で開催され、優秀賞に選ばれた齋藤陽道、佐藤華連、柴田寿美、高木考一、谷口育美のなかから、佐藤華連の「だっぴがら」がグランプリを受賞した。その時の展示はむろん見ているのだが、それが大阪市・天満橋のアートコートギャラリーに巡回したのをあらためて見て、特に齋藤陽道の作品「同類」の印象が違ってきていることに気づいたのだ。
齋藤は彼自身が聾唖のハンディを負っており、作品のなかにも障害を持つ人たちが登場してくることが多い。波打ち際に置き忘れられたように写っている車椅子に、裸の赤ん坊がぽつんと座っている写真などもあり、人間の存在の寄る辺のなさ、にもかかわらずいきいきと輝きを増す生命力を捉えようとしているのがわかる。作品に寄せたコメントに「大きな連なりの流れのなかにいる、ひとつのものたち。その意味においてすべては同類だ」とあったが、自分を含めて連綿とつながっていく命の流れを、肯定的に実感しつつ写真を撮っているのだろう。単純に明るい写真というだけではなく、ほの暗い闇の部分にもきちんと目配りができている彼の作品世界の広がりが、震災後のいま、切実に胸に迫ってくるように感じた。赤々舎から写真集の出版が決まったという話も伝わってきた。それもとても楽しみだ。

2011/04/23(土)(飯沢耕太郎)

海沼武史「八人の王が眠りに就く処」

会期:2011/04/07~2011/04/30

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

作家本人のプロデュースで会期中に「アイヌ音楽ライブコンサート」が開催されるということもあり、写真を見て最初は北海道の風景なのかと思った。そこに写っている、ゆったりとした丘陵地帯のたたずまいが、いかにもそれらしく感じたのだ。だが、聞けば撮影場所は海沼武史が住む八王子周辺だという。それで、この不思議な響きのタイトルの意味もわかった。「八人の王」というのは八王子から来ていたのだ。
その「八人の王」=八王子は、いま眠りに就こうとしている。太陽が沈み、黄昏時の紫がかった大気があたりを包み込み、家々の明かりが点灯され、空には星が瞬きはじめる。その移り行く時間を細やかに定着した写真群を眺めていると、そこに写っているのが現在の都市化された八王子ではなく、いわば太古の昔の風景であるように感じる。起伏のある地形が、より剥き出しのままあらわにされているようなその眺めは、安らぎとともにどこか怖さも感じさせるものだ。海沼がもくろんでいるのは、そんな始源的な風景のあり方を、黄昏時の光の魔術的な効果を利用しつつ、丁寧に写しとっていくことなのだろう。
1962年生まれの海沼は1996年に渡米し、帰国までの9年間、ニューヨークを中心にスピリチュアルな風景写真を発表してきた。その緻密な観察力、広がりを持つ作品の構想力が、いま大きく開花しつつある。

2011/04/20(水)(飯沢耕太郎)

プレビュー:川島小鳥 写真展「未来ちゃん」

会期:2011/05/10~2011/05/17

HEP HALL[大阪府]

佐渡島に住むひとりの女の子を捉えた写真集『未来ちゃん』で話題沸騰の川島小鳥が、その作品を携えて大阪で個展を開催。天真爛漫で、元気で、何よりも「もー、たまらん!!」な可愛さに満ち溢れた作品で、きっと関西のファンを瞬殺してくれるだろう。初日には川島としまおまほによるトークイベントも開催。また、会場から地下鉄で一駅のCalo Book shop & Cafeでは、川島のデビュー写真集『BABY BABY』の個展も開催される。

2011/04/20(水)(小吹隆文)