artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
ピンホール・フォトフェスティバル2010 in 九州

会期:2010/06/01~2010/06/20
共星の里・黒川INN美術館[福岡県]
京都造形大学教授の鈴鹿芳康を中心に2007年に設立されたピンホール写真芸術学会。やや仰々しい名称だが、要するに写真の原点というべきピンホール(針穴)写真の愛好者が集まって、情報を交換しつつ楽しんでいこうという集まりである。その年一回の総会と展覧会を中心とする「ピンホール・フォトフェスティバル」が、廃校になった小学校の建物を利用してユニークな活動を展開している共星の里・黒川INN美術館(福岡県朝倉市、アート・ディレクターはアメリカから帰国した柳和暢)で開催された。
6月12日のシンポジウム「スローライフとピンホール写真」にパネラーとして参加したのだが、たしかにどんな明るい場所でも数秒から数10秒の露出時間がかかるピンホール写真は「スローライフ」ならぬ「スローフォト」の象徴といえるかもしれない。デジタル化の急速な進行の裏で、ピンホール写真芸術学会の会員もコンスタントに増えて、180名を超えたという。展覧会に出品された会員の作品も、風景あり、人物あり、静物ありとかなり幅広い被写体を扱っており、コラージュ的な画面構成を試みるなど、旺盛な実験意識が見られた。「日本一のホタルの里」という周囲の自然環境も、作品とぴったりシンクロしていたと思う。来年の「ピンホール・フォトフェスティバル」は横浜で開催される予定という。各地の地域密着型のアート・プログラムと連携していくことで、さらに大きな活動の広がりが期待できるのではないだろうか。
2010/06/12(土)(飯沢耕太郎)
植田正治 写真展 写真とボク

会期:2010/05/21~2010/06/13
美術館「えき」KYOTO[京都府]
鳥取砂丘を舞台にした代表作をはじめ、初期から晩年までの作品を網羅した回顧展。初期作品こそピクトリアリズムや新興写真からの影響が見てとれるが、その後は一貫して独自の歩みが続く。生涯、故郷の鳥取から離れなかったが故のガラパゴス効果といったら失礼かもしれないが、中央から距離を置き続けたことが功を奏したのは間違いない。ある意味、写真史から浮いた存在だが、それ故彼の作品には時代を超越した魅力が宿っているのだ。また、シャープな構図と和の叙情が絶妙のバランスで均衡しているのも植田作品ならではの魅力だと再確認した。
2010/06/12(土)(小吹隆文)
フェリックス・ティオリエ写真展 いま蘇る19世紀末ピクトリアリズムの写真家

会期:2010/05/22~2010/07/25
世田谷美術館[東京都]
フェリックス・ティオリエ(1842~1914年)はフランス南部の都市、サン=テティエンヌに生まれ、当地でリボン製造の工場を経営して財産を築いた。1879年に若くして引退後は、写真撮影、考古学研究、出版活動、画家たちとの交流などで余生を過ごした。フランスはいうまでもなく写真術の発祥の地で、19世紀から20世紀にかけて多くの偉大な写真家たちを生み、多彩な活動が展開された。だがティオリエはパリを中心とした写真界の中心から距離をとっていたこともあり、これまでその仕事についてはほとんど知られていなかった。その作品のクオリティの高さが注目されるようになるのは、1986年にニューヨーク近代美術館で回顧展が開催されてからになる。
彼の作風は副題にもあるように「19世紀末ピクトリアリズム」ということになるだろう。だが、ロベール・ドマシー、コンスタン・ピュヨーなどの、同時代の純粋なピクトリアリズム=絵画主義の写真家とはやや異なる位相にあるように思える。たしかに絵画的でロマンティックな自然の描写が基調ではあるが、考古学に深い関心を寄せていたこともあって、8×10インチの大判カメラのピントは細部まできちんと合わされており、むしろ自然科学者のような緻密な観察力を感じさせる。さらに1900年のパリ万国博覧会の工事、故郷のサン=テティエンヌ、フォレ地方の農村地帯などの写真を見ると、彼は本質的にはドキュメンタリストの眼差しを備えた写真家だったようにも思えてくる。他にも史上初のカラー写真、オートクロームの実験などもしており、19世紀末から20世紀初頭にかけての写真史のさまざまな潮流が、この一地方作家の仕事の中に流れ込んでいる様が興味深かった。
2010/06/08(火)(飯沢耕太郎)
中居真理 展“Patterns”

会期:2010/06/05~2010/06/16
AD&A gallery[大阪府]
部屋の隅を撮った写真を組み合わせた作品と、横断歩道の縞模様を組み合わせた作品を出品。前者は1辺5センチほどのタイルに焼き付けられ、16ピース1組で構成されたものを、縦10段×横9列に並べるなどして展示された。後者は1辺約12、3センチのピースを1,000点以上用いて、帯状に画廊壁面を取り巻くよう展示された。幾何学的模様が抑揚なく繰り返される様子はミニマル音楽を連想させ、同時にオプアート的な錯視効果も取り入れられていて刺激的。各ピースが磁石で固定されているため、場の特性に応じて自由に姿を変えられるのも面白い。
2010/06/07(月)(小吹隆文)
原美樹子「Blind Letter」

会期:2010/06/04~2010/06/13
サードディストリクトギャラリー[東京都]
サードディストリクトギャラリーで5月から開催されてきた「そのままのポートレイトを見たい」というストリート・スナップの連続展示。気がついたら、阿部真士、星玄人、山内道雄の回は既に終わっていて、原美樹子の展覧会にようやく間に合った。原の次には6月15日~23日に川島紀良「Zephyros」展が開催される。スナップ写真がどんどん撮りにくくなっている状況を問い直そうとする、意欲的な企画だと思う。
さて、原美樹子は1990年代半ばから、ふわふわと宙を漂うような6×6判のカラー写真のスナップを発表し続けてきた写真家だが、初期から近作までかなりざっくりと構成した今回のような展示を見ると、その視線や画面構築のシステムの特徴がよく見えてくる。彼女が使っているカメラは1930~50年代にかけて製造されたスプリング式の6×6判カメラ、イコンタシックスだそうだ。現在のデジタルカメラのような精密機械ではなく、かなり「ゆるい」機構を備えたカメラだ。フィルムに光が入ることもあるし、ストラップが写ってしまったり、フレーミングが傾いたりした写真もある。このようなカメラをあえて使うことで、身体的な反応と実際にできあがってくる画像との間に微妙なズレが生じてくる。それが逆に思いがけない何かを「呼び込む」ことにつながっていくのではないだろうか。原のような日常スナップでは、いかにしてこの微妙なズレを保ち続けるかが重要になってくるが、彼女の場合、それを古いカメラのメカニズムに委ねているのだろう。そこにあの独特の間や余韻が生じてくる秘密があるのではないかと思う。
2010/06/04(金)(飯沢耕太郎)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)