artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
富谷昌子「みちくさ」

会期:2010/05/11~2010/06/12
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
東京・京橋のツァイト・フォト・サロンでは、時々思いがけない新鮮な作風の若手写真家の展覧会が開催されることがある。今回の富谷昌子の「みちくさ」もそんな展示。故郷の青森を6×6判のカメラで撮影した、どちらかといえば古風な印象を与えるモノクローム作品が並ぶ。だが、その何枚かに写っている鳥、犬、山羊などの動物、とりわけ馬の写真が素晴らしい迫力で、見る者を異界に誘い込む強い力を発していた。同じ昌子という名前の小栗昌子が撮影する岩手県・遠野の情景もそうなのだが、東北地方の風土に潜む魔のようなものが、若い女性写真家の鋭敏なアンテナによってとらえられ、引き出されているのかもしれない。
もっとも、見る者を引き込んでいく力を備えた写真だけではなく、凡庸なものもかなり含まれているので、展示作品の選択にはもう少し注意深さが必要だろう。まっすぐに、どちらかといえば生真面目に被写体に向かう姿勢は悪くないが、のびやかな開放感に乏しく、固く縮こまっているように見える写真も少なくない。そのあたりを考えていけば、さらなるスケールの大きさが期待できるのではないだろうか。動物だけでなく、水たまりに映る樹木の影にピントを合わせた写真など、心理的な陰影を取り込んだ作品も気になった。自分でも分けがわからない衝動に突き動かされて撮影した写真を、もう少し増やしてもいいかもしれない。
2010/05/13(木)(飯沢耕太郎)
佐藤雅晴 Bye Bye Come On

会期:2010/05/08~2010/05/29
イムラアートギャラリー[京都府]
エスカレーターを昇り続ける女性の後ろ姿のアニメ、林の中でウサギとクマの着ぐるみが手招きをするアニメ、そしてスチール作品が5点と映像がもう1点出品された。実写映像をフォトショップ上でトレースし、ペンタブレットで描いた作品は、初期段階で実写データを消去し、イメージだけが画面に定着している。そのためだろうか、現実と非現実の中間を見せられているような不安定な感覚がぬぐえない。2008年に「液晶絵画」という展覧会があったが、佐藤の作品もまさにその一例だ。今後はこうした表現がどんどん増加するのであろう。
2010/05/11(火)(小吹隆文)
渡邊晃一「テクストとイマージュの肌膚」

会期:2010/04/28~2010/05/08
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
渋谷・宮益坂上のZEN FOTO GALLERYは、普段は中国の写真家の作品を中心に展示しているのだが、今回の渡邊晃一の個展は日本人作家というだけでなく、写真作品にドローイングも加えたものだった。渡邊は福島大学文学・芸術学系の准教授で、絵画、写真、彫刻、パフォーマンスアートなどにまたがる複合的な領域で仕事をしている。たとえば、今回の舞踏家大野一雄、大野慶人とのコラボレーション作品では、彼らの身体を石膏や発泡スチロールで克明に型取りし、その自分の分身というべきオブジェと生身の舞踏家とが絡み合うパフォーマンスを、写真とドローイングで記録している。大学・大学院時代に徹底して学んだ解剖学の知識と、卓抜なデッサン力を駆使した作品が、枝分かれをするように次々に展開していく過程は、展覧会と同時に刊行された同名の作品集(青幻舎刊)を見ればよくわかるだろう。
たしかに、その細部まで丁寧に仕上げられた作品群(特に1999年の大野一雄が自らの腕の型取りを抱いて踊るセッション)は質が高いものだが、発想がやや予測可能な範囲におさまっているような気がする。ドゥルーズ=ガタリ流にいえば、ツリー状のどこか整合性と秩序を保った構造ではなく、どこに伸び広がり接続するのかわからないリゾーム状の構造があらわれてくるといいと思う。笑いやエロティズムのような、思考を逸脱させ、攪乱するような要素をもっと積極的に取り込むと、この「まじめな」作品世界にひび割れが生じるかもしれない。
2010/05/08(土)(飯沢耕太郎)
Palla/河原和彦 作品展「イコノグラフィー2『銀河』」

会期:2010/05/07~2010/06/06
ギャラリーKai、銀杏菴[大阪府]
1点の写真を何度も折り返して重ねることで驚くべき世界を表出させる、Pallaこと河原和彦。本展では海岸の岩場や大阪の港湾を素材にした新作の写真作品を発表。モノクロを選択したことにより、まるで水墨画のように幽玄なビジュアルが表現された。別会場の銀杏菴(今年で築100年の長屋)では、床の間で映像作品を展覧。空間とのマッチングが良く、スチール作品以上にマジカルな作品に仕上がっていた。
2010/05/08(土)(小吹隆文)
須田一政「風姿花伝」

会期:2010/05/03~2010/05/09
Place M[東京都]
須田一政の名作中の名作『風姿花伝』(朝日ソノラマ、1978年)におさめられた作品が、当時のヴィンテージ・プリントで展示されるというので、ワクワクしながら見にいった。おそらく写真集の印刷原稿なのだろう。フェロタイプという金属板に圧着して、ピカピカの光沢紙に仕上げたプリントの迫力はやはりすごいものだった。いま手に入る印画紙では、まずここまでの黒の締まりとコントラストは無理だし、いかに性能が急速にアップしているとはいえ、デジタルプリンターではこの画像の厚みや質感を出すのは不可能だろう。若い写真家は、ぜひこのようなプリントのクオリティを、視覚的な記憶として保ち続けていってほしい。そのための教育的な価値を備えた写真展といえるのではないだろうか。それにしては会期が短すぎるのが残念だが。
もちろん、作品の内容にもあらためて感銘を受けた。このシリーズを撮影していた1970年代は須田にとっても多難な時期で、「将来性などゼロに等しい。さりとて写真以外に取り柄もない」という状態だったという。だが、作品にはそのような気持ちの濁りはまったく感じられず、むしろ吹き渡る風のような開放感がみなぎっている。むろん、闇や翳りの方に引き寄せられていく作品も多いのだが、それらもまた「闇の輝き」を発しているように見えてくるのだ。祭の踊り手が奇妙なポーズで佇んでいる写真や、ヌラリとした大蛇が、壁にコの字型に這っている写真など、背筋がぞくぞくしてくるような素晴らしさだ。
2010/05/06(木)(飯沢耕太郎)


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