artscapeレビュー

渡邊晃一「テクストとイマージュの肌膚」

2010年06月15日号

会期:2010/04/28~2010/05/08

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

渋谷・宮益坂上のZEN FOTO GALLERYは、普段は中国の写真家の作品を中心に展示しているのだが、今回の渡邊晃一の個展は日本人作家というだけでなく、写真作品にドローイングも加えたものだった。渡邊は福島大学文学・芸術学系の准教授で、絵画、写真、彫刻、パフォーマンスアートなどにまたがる複合的な領域で仕事をしている。たとえば、今回の舞踏家大野一雄、大野慶人とのコラボレーション作品では、彼らの身体を石膏や発泡スチロールで克明に型取りし、その自分の分身というべきオブジェと生身の舞踏家とが絡み合うパフォーマンスを、写真とドローイングで記録している。大学・大学院時代に徹底して学んだ解剖学の知識と、卓抜なデッサン力を駆使した作品が、枝分かれをするように次々に展開していく過程は、展覧会と同時に刊行された同名の作品集(青幻舎刊)を見ればよくわかるだろう。
たしかに、その細部まで丁寧に仕上げられた作品群(特に1999年の大野一雄が自らの腕の型取りを抱いて踊るセッション)は質が高いものだが、発想がやや予測可能な範囲におさまっているような気がする。ドゥルーズ=ガタリ流にいえば、ツリー状のどこか整合性と秩序を保った構造ではなく、どこに伸び広がり接続するのかわからないリゾーム状の構造があらわれてくるといいと思う。笑いやエロティズムのような、思考を逸脱させ、攪乱するような要素をもっと積極的に取り込むと、この「まじめな」作品世界にひび割れが生じるかもしれない。

2010/05/08(土)(飯沢耕太郎)

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