artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

伊島薫「一つ太陽─One Sun」

会期:2009/08/22~2009/09/23

BLD GALLERY[東京都]

伊島薫は女優たちが死者を演じる「最後に見た風景」のシリーズを撮り続けるうちに、死の恐怖から逃れるための「宗教」がほしくなったのだという。自分にとって「宗教」とは何かを自問自答しているうちに「一つ太陽─One Sun」に行き着いた。この世にただ一つしかない、あまねく世界を照らし出す太陽──たしかに「自然に手をあわせたくなる対象」として、これほどふさわしいものはないだろう。さらにいえば、光の源泉である太陽は、写真家にとっては神そのものであるという解釈も成り立ちそうだ。
この「一つ太陽」シリーズのコンセプトはきわめて単純だ。「魚眼レンズを使って日の出から日没までの太陽の軌跡を長時間露光で一枚の写真に収める」ことで、円形の画面に太陽が大きな弧を描き出す。北極圏のような場所では、白夜になるため太陽の軌跡は丸い円を描く。このあたりのストレートなアプローチと、富士山頂や赤道上を含む綿密で粘り強い撮影作業の積み重ねは、いかにも体育会系の写真家である伊島らしいといえるだろう。
ただ残念なことに、展示が小さくまとまってしまった。つるつるのプラスティックでコーティングしたような仕上げではなく、もっとざっくりとした荒々しいインスタレーションの方が、テーマにふさわしかったのではないだろうか。広告や雑誌を舞台にする写真家の展示に共通する弱点が、この場合にもあらわれてしまったということだろう。

2009/08/22(土)(飯沢耕太郎)

岡本太郎・東松照明 写真展「まなざしの向こう側」

会期:前期(本島・久高島編)2009/05/23~2009/06/28
後期(離島編)2009/07/11~2009/08/30
沖縄県立博物館・美術館 コレクションギャラリー1[沖縄県]

インタビューの仕事で、皆既日食の日に、長崎から沖縄・那覇に拠点を移しつつある東松照明氏を訪ねる。ついでに2007年に新装オープンした沖縄県立博物館・美術館で、岡本太郎と東松照明の写真コレクション展を見ることができた。ちょうど開催されていたのは会期の後期にあたる「離島編」で、作品は各18点ほどと少ないが、緊張感あふれるいい展示だった。岡本は1959年の最初の渡沖の時に撮影された石垣島、宮古島、竹富島の写真、東松は1971~73年に撮影された奥武島、伊平屋島、宮古島、波照間島などの写真が中心で、1991年の多良間島のカラー写真もある。
これまで、この二人の沖縄に対するアプローチの仕方は、かなり異なっている印象があった。時代も違うし、撮影の動機も、それぞれの問題意識もかけ離れている。だが、あらためて見ると、むしろ二人の写真の等質性の方が目についてくる。表層的な現実を突き抜けて、そこにある風景の原質、古層というべきイメージを立ち上げるやり方、被写体となる人間や事物のディテールに細やかに分け入りつつ、全体を大きく みとる力──そのあたりがとても似通っているのではないだろうか。二人に共通する民俗学─人類学的な「まなざし」が、沖縄という希有な場所と出会ってスパークし、揺れ騒ぎ、見る者に飛びかかってくるような躍動感のあるイメージ群として形をとっている。

2009/08/22(土)(飯沢耕太郎)

野村恵子「RED WATER」

会期:2009/08/18~2009/09/08

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

野村恵子の新作写真集『RED WATER』(LIBRARYMAN/artbeat publishers)の出版にあわせた写真展。これまでの『DEEP SOUTH』(リトルモア、1999)、『Bloody Moon』(冬青社、2006)と比較して表現力が格段に上がり、「ほお」と嘆声を漏らしたくなるような写真が多い。
『DEEP SOUTH』の頃の野村は、同年代の女性たちと彼女たちを包み込む世界に視線を向けていた。そこにいるのは明らかに自分の分身だったはずだ。その生々しく、密接な被写体との関係のあり方が、今回の『RED WATER』ではいい意味で遠く、柔らかく、大きなものになってきている。40歳近くになった野村は、少し年上の姉の位置から、妹たちをそっと見守っているといえるだろう。そこには明らかに、個々の写真を貫く「物語」=エネルギーの流れが垣間見える。映画監督の河瀬直美が展示を見て、「映画のスチール写真のようだ」という感想を伝えてくれたという。一枚一枚の写真が、それぞれふくらみのある背景の所在を感じさせ、たしかに河瀬が監督すればいい映画ができそうだ。美しい少女たちと、細やかな陰影に彩られた沖縄、福井、東京の眺め──それらをぼーっと見ているだけで幻の「物語」=映画が立ち上がってきそうでもある。

2009/08/21(金)(飯沢耕太郎)

篠山紀信「KISHIN:Bijin(キシン:ビジン)」

会期:2009/08/07~2009/08/16

表参道ヒルズ本館B3F スペース オー[東京都]

篠山紀信が「今最も輝いている6人の女性を撮りおろす」という写真展。モデルは黒木メイサ(女優)、西尾由佳理(アナウンサー)、中村七之助(歌舞伎俳優)、安蘭けい(元宝塚星組トップスター)、川上未映子(芥川賞作家)、原沙央莉(モデル)である。
こういう企画ものでは,ど真ん中の豪速球でストライクをとるのが篠山の真骨頂なので,期待して見にいったのだが、残念ながら感動は薄かった。屋外で撮影した川上未映子とのセッションなど、いかにも彼らしい気力の充実したセッションもあるのだが、全体に観客を巻き込んでいく迫力を欠いている。特にがっかりしたのが、「眼力」の強い人気絶頂の美人女優、黒木メイサの写真で、抜群の素材のよさを活かせず、スタジオ撮りでお茶を濁しただけにしか見えない。あまり時間がとれなかったのだろうが、残念。やはり篠山紀信は、写真の世界に君臨して輝きを放つ「太陽王」でいてほしいと思う。次回はもっとパワーアップした「新・美人展」を見てみたい。

2009/08/15(土)(飯沢耕太郎)

津田直 果てのレラ

会期:2009/07/11~2009/08/16

一宮市三岸節子記念美術館[愛知県]

北海道の礼文島と沖縄の波照間島を取材した新作「果てのレラ」を中心に、「七曜」「彼方の星」「盥(たらい)星図」などを組み合わせて構成された。日本の最北端と最南端を結ぶことで自身の座標軸を確認しようとする彼の態度は、近代以前の宇宙観をテーマにした「七曜」や、線香で穴をあけた和紙で星空を表現した「彼方の星」と「盥星図」と共鳴し、思索する写真ともいうべき津田独特の作品世界を濃厚に形作っていた。コンパクトながら過不足なくまとめられており、見終わった後に残る清涼な余韻も心地よい。

2009/08/15(土)(小吹隆文)