artscapeレビュー
伊島薫「一つ太陽─One Sun」
2009年09月15日号
会期:2009/08/22~2009/09/23
BLD GALLERY[東京都]
伊島薫は女優たちが死者を演じる「最後に見た風景」のシリーズを撮り続けるうちに、死の恐怖から逃れるための「宗教」がほしくなったのだという。自分にとって「宗教」とは何かを自問自答しているうちに「一つ太陽─One Sun」に行き着いた。この世にただ一つしかない、あまねく世界を照らし出す太陽──たしかに「自然に手をあわせたくなる対象」として、これほどふさわしいものはないだろう。さらにいえば、光の源泉である太陽は、写真家にとっては神そのものであるという解釈も成り立ちそうだ。
この「一つ太陽」シリーズのコンセプトはきわめて単純だ。「魚眼レンズを使って日の出から日没までの太陽の軌跡を長時間露光で一枚の写真に収める」ことで、円形の画面に太陽が大きな弧を描き出す。北極圏のような場所では、白夜になるため太陽の軌跡は丸い円を描く。このあたりのストレートなアプローチと、富士山頂や赤道上を含む綿密で粘り強い撮影作業の積み重ねは、いかにも体育会系の写真家である伊島らしいといえるだろう。
ただ残念なことに、展示が小さくまとまってしまった。つるつるのプラスティックでコーティングしたような仕上げではなく、もっとざっくりとした荒々しいインスタレーションの方が、テーマにふさわしかったのではないだろうか。広告や雑誌を舞台にする写真家の展示に共通する弱点が、この場合にもあらわれてしまったということだろう。
2009/08/22(土)(飯沢耕太郎)