artscapeレビュー

野村恵子「RED WATER」

2009年09月15日号

会期:2009/08/18~2009/09/08

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

野村恵子の新作写真集『RED WATER』(LIBRARYMAN/artbeat publishers)の出版にあわせた写真展。これまでの『DEEP SOUTH』(リトルモア、1999)、『Bloody Moon』(冬青社、2006)と比較して表現力が格段に上がり、「ほお」と嘆声を漏らしたくなるような写真が多い。
『DEEP SOUTH』の頃の野村は、同年代の女性たちと彼女たちを包み込む世界に視線を向けていた。そこにいるのは明らかに自分の分身だったはずだ。その生々しく、密接な被写体との関係のあり方が、今回の『RED WATER』ではいい意味で遠く、柔らかく、大きなものになってきている。40歳近くになった野村は、少し年上の姉の位置から、妹たちをそっと見守っているといえるだろう。そこには明らかに、個々の写真を貫く「物語」=エネルギーの流れが垣間見える。映画監督の河瀬直美が展示を見て、「映画のスチール写真のようだ」という感想を伝えてくれたという。一枚一枚の写真が、それぞれふくらみのある背景の所在を感じさせ、たしかに河瀬が監督すればいい映画ができそうだ。美しい少女たちと、細やかな陰影に彩られた沖縄、福井、東京の眺め──それらをぼーっと見ているだけで幻の「物語」=映画が立ち上がってきそうでもある。

2009/08/21(金)(飯沢耕太郎)

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