artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
青森県立美術館監修『小島一郎写真集成』

発行所:インスクリプト
発行日:2009年1月10日
真冬の北国から届いた郵便物。それがこの『小島一郎写真集成』だった。青森県立美術館で開催されている「小島一郎──北を撮る」(2009年1月10日~3月8日)のカタログとして刊行されたものだが、さすがにこの寒い時期に遠い青森まで展示を観に行くのは辛い。申しわけないが、写真集として紹介させていただく。
小島一郎は1924年に青森で生まれ、1964年に39歳で死去した写真家である。1961年に「下北の荒海」でカメラ芸術新人賞を受賞、作家の石坂洋次郎、詩人の高木恭造と共著で『津軽 詩・文・写真集』(新潮社、1963)を刊行するなど、生前は将来を嘱望された若手写真家だった。だが、彼の代表作をほとんどおさめた、決定版ともいえるこの写真集を見ると、この北の作家の人生が、いくつかの運命の綾に彩られた、どちらかといえば悲劇性の強いものであったことがよくわかる。
詳しくは、同書に掲載された同館学芸員、高橋しげみによる力のこもった論文、「北を撮る──小島一郎論」を読んでいただきたいのだが、彼を東京の写真の世界に招き寄せた名取洋之助がすぐに世を去ったり、慣れない都会の生活で体を壊したり、起死回生をめざした北海道撮影行が失敗に終わったり、特にその晩年は不運が重なったということがあるようだ。とはいえ、彼の「津軽」や「凍ばれる」シリーズの、骨太の造形力と、寒々しい北の大地の手触りを鋭敏に感じとり、ハイコントラストの印画に置き換えていく皮膚感覚は、誰にもまねができないものだろう。あらためて、小島一郎の魅力的な写真世界を若い世代にも語り継ぐという意味で、今回の出版企画の意義は大きい。
2009/01/31(土)(飯沢耕太郎)
杉田和美 写真展

会期:2009/01/19~2009/01/31
コバヤシ画廊[東京都]
写真家・杉田和美による恒例の写真展。この1年あまりのあいだに展覧会のオープニングを撮影した写真を発表した。作品を中心として展覧会会場を撮影した写真は数あるが、その前触れとして必ず催されている「オープニング・レセプション」という恒例行事はほとんど記録に残されていない。現代美術史を編纂するためにも、ぜひ写真集としてまとめられることを願う。
2009/01/29(木)(福住廉)
蜷川実花『EROTIC TEACHER YUCA』

発行所:祥伝社
発行日:2008年8月30日
去年購入して本棚に放り込んでいたのだが、あらためて「発掘」して見てみるとかなり面白い写真集だったので紹介しておきたい。ストリート系ファッション雑誌『Zipper』(2005年12月号~2008年9月号)に連載されていた写真コラムをまとめたもので、「セクシーパフォーマンス集団」の「東京キャ☆バニー」のYUCAというモデルが、衣装をとっかえひっかえしてセクシーポーズをとるという相当にお馬鹿な企画である。ガテン系、オタク、年下、王子様、成金、神主、IT社長など、キャラクターや職業に合わせて「こんな男を狙い撃ち」というわけで、どうでもいい内容といえばそれまでなのだが、セットアップやスタイリングにまったく手抜きがないところが凄い。
もしかすると蜷川実花の天性の演出力と想像力(というより妄想力)は、こういう面白企画にこそいきいきと発揮されるのではないだろうか。これを見ていると、「エロの脱構築」を旗印に、荒木経惟+末井昭のコンビで1980年代を疾走した『写真時代』のグラビアページを思い出す。ちょっとほめ過ぎかもしれないが、この「スゴエロ」路線は、蜷川の今後の方向性の一つを示しているような気がする。これをさらに発展させて、もっと読者をげんなりさせるような作品を見せてほしいと思う。厚紙に印刷し、角を丸く落として、絵本のようなテイストで見せた装丁のアイディアもなかなかよかった。
2009/01/29(木)(飯沢耕太郎)
寺田真由美 展

会期:2009/1/15~2/28
BASE GALLERY[東京都]
寺田真由美は1989年に筑波大学大学院の修士課程を修了後、主に立体作品を発表してきた。ところが2005年に発表された「明るい部屋の中で」のシリーズから、写真を制作の手段として使うようになってきた。モノクロームの画像に大きく引き伸ばされた、無機質だがどこか柔らかな手触りを感じさせる「部屋」の眺めは、よく見ると作り物であることがわかる。現実の空間ではなく、誰のものともつかない架空の「部屋」が設定されることで、作品を見る者は、そのイメージに自分自身の記憶や経験を重ね合わせて愉しむことができるのである。
今回の新作ではニューヨークのセントラルパークで撮影された実際の風景が、窓の外の景色としてはめ込まれている。さらに「部屋」には本や地図、桜のイメージなどが配置され、その住人の存在感がより強く感じられるようになってきている。そのことによって、これまではどちらかというと、内向きに、抽象的に傾きがちだった思考や感情の流れが、外に向けて開かれるようになった。これはかなり大きな変化であり、寺田の作品世界が次にどんなふうに広がっていくかが楽しみになってきた。
僕はもう少しダイナミックに、「部屋」の内と外との交流を図っていってもいいのではないかと考えている。不在の住人たちも、そろそろ帰宅してもいい頃ではないだろうか。
2009/01/29(木)(飯沢耕太郎)
Izima Kaoru『Landscapes with a Corpse』

発行所:Hatje Cants
発行日:2008年
うつゆみこの展覧会の隣のギャラリー、アートジャムコンテンポラリーで伊島薫の展示も行なわれていた。展示そのものはあまり力が入っていなかったのだが、彼が昨年ドイツのHatje Cants社から刊行した写真集『Landscapes with a Corpse』を販売していたので、いい機会だと思って購入してきた。
この「死体のある風景」のシリーズは、1994年、伊島が編集していたファッション誌『ジャップ』に小泉今日子をモデルにスタートしているから、もう15年も続いているわけだ。モデルの交渉からはじまって、ロケ地を選び、セッティングし、撮影するという気が遠くなるような作業の積み重ねであり、尋常ではないエネルギーが費やされている。それがこのような形で国際的に評価されるようになったのは、とても素晴らしいことだと思う。
ただ、どうも日本での評価が低いように感じる。おそらく「女優が死体を演じる」というコンセプトそのものが、やや際物に見えてしまうことがその一つの理由だろう。死者を撮影することのタブーがかなり強固なこの国では、「本物」はともかく、それをわざわざ演じるという行為に対する違和感があるのではないだろうか。さらに登場するモデルが、TVや映画で人気のある女優や歌手であることが、諸刃の刃になっているようだ。彼女たちが「まじめに」演技すればするほど、どこかしらけてしまう。その点、外国では彼女たちはほとんど無名なので、逆にニュートラルに「死体のある風景」として眺めることができるのではないだろうか。いずれにせよ、伊島薫という写真家の本質である、体育会系のノリのよさが充分に発揮された快作(怪作?)である
2009/01/23(金)(飯沢耕太郎)


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