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蒐めて愉しむ鼻煙壺──沖正一郎コレクション

2012年03月01日号

会期:2012/01/02~2012/03/25

大倉集古館[東京都]

鼻煙壺(びえんこ)とは、嗅ぎ煙草入れのこと。英語ではsnuff bottleといい、もともとはヨーロッパで用いられていた器が中国で独自の発達を遂げたものである。用としては乾燥した煙草の粉末を入れる器であるから、素材には余り制約がない。硝子製を中心に、木、象牙、貴石、金属、七宝などさまざまな素材と工芸技術が用いられている。器には小さな蓋が付き、蓋の裏には粉末を取り出すための小さな匙が付いている。取り出した嗅ぎ煙草の粉末は鼻の粘膜にこすりつけて、ニコチンを摂取する。鼻煙壺は日本の印籠や根付けと同様、本来は実用的な器であったものが非実用的な装飾品へと変容し、それとともに工芸品としての粋を極めていった。小さな透明なガラスの器に、内側から風景や人物を描いた現代の鼻煙壺を中国のお土産品として見たことがある人も多いのではないだろうか。
 本展に出品されている約300点の鼻煙壺は、ファミリーマート元社長の沖正一郎氏の蒐集品である。沖氏は『日経流通新聞』の記事で月給の1割までを趣味に費やすと語っているが(1986年10月13日、25頁)、20数年のうちに3,000点以上の鼻煙壺を蒐集し、すでに一部を北京・故宮博物院やロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館に寄贈。さらに2008年には大阪市立東洋陶磁美術館に1,200点を寄贈している。蒐集家の鑑のような人物である。今回の展覧会に出品されているのは、沖氏があえて手元に残した逸品やその後蒐集した品々なのだそうだ。超絶的な技法が施された品々に、息を呑まされる。[新川徳彦]

2012/02/21(火)(SYNK)

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