artscapeレビュー

林忠彦「カストリ時代 1946-56 & AMERICA 1955」

2015年09月15日号

会期:2015/07/27~2015/08/25

キヤノンオープンギャラリー1、2[東京都]

東京・品川のキヤノンSタワーに新しいスペースが誕生した。そのオープンギャラリー1、2のお披露目を兼ねて開催されたのが林忠彦展である。代表作の「カストリ時代」と、これまでまとまった形では公開されてこなかった「AMERICA」の2部構成の展示は、そのオープニング企画としてふさわしいものといえるだろう。
林忠彦は、1955年7月にミスユニバース・コンテストの世界大会を取材するためにアメリカに飛んだ。カリフォルニア州ロングビーチでコンテストの様子を撮影したあと、2週間ほどニューヨークに滞在し、ロサンゼルス、ハワイを経て8月末に帰国した。約50日間の滞在でフィルム150本を撮り尽くしたという。林は敗戦直後の「焼け跡・闇市」の時代の世相を活写したスナップ写真群や、1948年から『小説新潮』に連載した「文士」シリーズで、一躍人気ナンバーワンの写真家になる。だが、1950年代になると、ワイドレンズの多用とやや演出過多の写真撮影に対してマンネリ気味という批判の声も聞こえはじめていた。言葉の通じないアメリカで、被写体と直接対峙するスナップ写真を撮り続けることは、その意味で彼にとって原点回帰の試みだったのではないだろうか。残された写真群には、抑えきれない撮ることの歓びがあふれ出ているように見える。
ただ、ちょうど同時期に『アメリカ人』(The Americans, 1959)の撮影を開始していたロバート・フランクの仕事と比べるまでもなく、50日という滞在期間はあまりにも短すぎた。林自身もそのことは充分承知していて、「皿洗いをしてもいいから、もう一度アメリカを撮りたい」と語っているが、残念ながらそれは実現しなかった。とはいえ、1940~50年代の復興期の日本と、黄金時代を謳歌していた1955年のアメリカを対比させる本展は、「戦後70周年」を思いがけない角度から照らし出す好企画だと思う。なお、展覧会にあわせて、徳間書店から写真集『AMERICA 1955』が刊行されている。

2015/08/02(日)(飯沢耕太郎)

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