artscapeレビュー
浦田進「8月6日の朝」
2015年09月15日号
会期:2015/07/28~2015/08/10
ギャラリーNP原宿[東京都]
浦田進は1975年島根県生まれ。東京綜合写真専門学校第二芸術科(夜間部)卒業後、都市のストリート・スナップを中心に発表してきたが、2006年から8月6日に広島・平和記念公園で開催される平和記念式典(原爆死没者慰霊式)を撮影するようになった。2009年からは、慰霊碑の前で手を合わせる人々の姿を90ミリの望遠レンズで撮影する「8月6日の朝」のシリーズを開始する。今回のギャラリーNP原宿での展示では、2009年から14年にかけて撮影された同シリーズから、32点が壁に一列に並んでいた。
2011年の東日本大震災を契機として、スナップ写真やドキュメンタリー写真を撮影する写真家たちの意識が変わりはじめた。従来の方法論では、流動的に変容する現実を捉えるのがむずかしくなってきているためだ。浦田のような長期にわたる「定点観測」による撮影も、そのひとつの可能性を示しているのではないかと思う。今回のシリーズでも、撮り方を固定することで、逆に観客を被写体の多様なあり方に思いを馳せるように引き込んでいく狙いがきちんと打ち出されて、見応えのある写真群として成立していた。
写真展にあわせて青弓社から77点の写真がおさめられた同名の写真集が刊行されたことで、このシリーズも一区切りを迎えたのではないだろうか。浦田自身は、これから先も平和記念式典の撮影は続けていきたいと考えているようだが、同じやり方をとる必要はないだろう。「8月6日」の意味をさらに語り継いでいくためにも、新たな角度からのアプローチが求められる時期にきていると思う。なお本展は8月12日~23日に広島市のgallery718に巡回した。
2015/08/03(月)(飯沢耕太郎)