2018年07月15日号
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artscapeレビュー

「描く!」マンガ展 ~名作を生む画技に迫る─描線・コマ・キャラ~

2016年08月01日号

会期:2016/07/23~2016/09/25

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

展覧会は3章から構成されているが、タイトルにある「描く!」については主に第2章「名作の生まれるところ─マイスターたちの画技を読み解く」に集約されている。ここでは1955年にデビューしたさいとう・たかをから、2000年にデビューしたPEACH-PITまで、8名(組)のマンガ家の作品原画(デジタル出力、複製原画を含む)が展示され、作家・作品・画技の特徴が解説されている。なかでもマンガ家たちの「画技」に関しては、田中圭一(マンガ家・京都精華大学准教授)による模写、分析、解説がすばらしく、これだけでもこの展覧会には価値があるのではないかと思えるほどだ。なるほど、タッチを似せるためにはパロディの対象となるマンガ家の描き方の特徴を捉えることが必須であり、手塚治虫など時代をつくってきたマンガ家たちのパロディ作品を描いてきた田中圭一はこのような分析にうってつけの人材だ。彼にこの仕事を依頼した企画者の慧眼に感服する。
展示第1章はトキワ荘、第3章は技法書やマンガ教育など。第2章に挿入されているコラム的展示と合わせて、戦後のストーリー漫画にフォーカスした本企画を貫くテーマは「描く読者」だ。マンガは読むだけのものではない。キャラクターの似顔絵を描いた経験がある人は多いだろう(筆者もそのひとりだ)。描く読者の一部はやがて高校や大学の漫研、同人誌などを経て描く人になる。同様の経路は文学などにもあるのだろうが、本展監修者・伊藤剛(東京工芸大学准教授)は、マンガ家たちのデビュー年齢が低く「年齢も感性も近い読者に向けて作品を作り出すという『回路』が成立している」と指摘する。そうした「回路」を形づくる媒体は時代によって移りかわる存在であり、第1章ではトキワ荘のマンガ家たちが互いの作品の読者でもあったという点、第2章では貸本漫画や雑誌『COM』、アニメ誌・マニア誌、新人賞、コミックマーケットの役割、第3章では大学におけるマンガ教育や画像投稿サイトpixivが紹介される。
人気マンガ家のファンイベントのような派手なマンガ展・原画展が美術館を会場に開催される昨今、歴史的視点と批評とを盛り込み、マンガの未来をも見据えた本展は、マンガ展のあり方を考える上でも注目すべき企画であることは間違いない。なお、会場は第1章を除いて撮影が可能。印刷物では再現されない線の強弱やベタの濃淡といった筆致、ホワイトによる修正跡など、マンガ家たちの「画技」を目に焼き付け、写真に残すことができる。[新川徳彦]


展示風景

2016/07/22(金)(SYNK)

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