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artscapeレビュー

AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

2017年09月01日号

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会期:2017/07/08~2017/10/01

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

携帯電話などの電子機器から家電、家具、インテリアまで、深澤直人がこれまでにデザインしてきた多彩な仕事を紹介する展覧会。展覧会タイトルの「ambient」を辞書で引くと「周囲の、環境の」という訳が出る。この「ambient」を、深澤は「ものとものの間にある空気」と説明する。そこで思い出したのは、2009年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された深澤直人の展覧会「THE OUTLINE 見えていない輪郭」だ。深澤直人のプロダクトと藤井保による写真で構成された展覧会が提示していたのは、プロダクトそのものではなく、プロダクトとその周囲との関係によって現われる「輪郭」だった。写真は当然静的なものだったが、照明を入れた乳白色アクリルの上に展示されたプロダクトの輪郭は、それを見る人の視線の移動によって絶え間なく変化する。平面図には現われないかたち、視線の移動によってシームレスに変化する輪郭の美しさを見せる展覧会だった。そして今回の展覧会は「ambient」。「周囲」が意味するものは、「輪郭」が示す「線」ではなく「空間」あるいは「空気」。その「空気」を見せるために、展示室はキッチン、ダイニング、リビング、浴室などの居住空間に見立てて造作され、そこに深澤がこれまでに手がけたプロダクトが配されている。観覧者はケースに展示されたプロダクトを単体で鑑賞するのではなく、モデルルームのような室内に置かれた作品の周りをめぐり、空間とプロダクトの関係性が生み出す「空気」を体感することになる仕掛けだ。
そのような生活空間一式が深澤の仕事のみで構成できていることはその仕事の多彩さを語っており、またメーカーがさまざまであるにも関わらず、価格帯もさまざまであるにも関わらず、そこには一貫したスタイルを見ることができる。しかしその一貫性は、アーティストの作品スタイルに見られるそれではなく、デザイン思想によって生み出されるもの。深澤のデザインはしばしば「アノニマス(無名の)」と呼ばれる。たとえば、無印良品の壁掛式CDプレーヤー(1999)やパナソニックのドライヤー(2006)は、デザインに詳しい者ならば深澤直人の仕事と知っているが、メーカーは深澤の名前を出していないので、この製品のユーザーのどれほどがそのことを知っているだろうか。筆者はこの夏、無印良品の店頭で新しいスーツケースを試してみて、シンプルでとても使い勝手が良く手頃な価格の製品という印象を持ったのだが、本展を見てはじめてそれが深澤デザインだということを知った。消費者は、深澤直人のプロダクトをデザイナーの名前ではなく、いいデザイン、しっくりくるデザイン、使いやすいデザインという視点で手にとるのだ。そしてメーカーが深澤に期待していることもまた、スター・デザイナーのブランドで売るのではなく、造形的な差別化ではなく、触れたとき、使ったときに違いが分かるデザインということなのだろう。総数100点以上のプロダクトが紹介されている展示空間は、デザイン関係者のみならず、ふつうの生活者にとっても、「よいデザインとは何か」という問いに対するひとつの指針、デザインが場にもたらす「空気」の存在を教えてくれる。[新川徳彦]


会場風景

2017/08/15(火)(SYNK)

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