2018年10月15日号
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artscapeレビュー

川俣正「工事中」再開

2017年09月01日号

会期:2017/08/18~2017/09/24

アートフロントギャラリー+ヒルサイドテラス屋上[東京都]

川俣正の「工事中」をリアルタイムで知ってる人はもう50歳以上のはず。1984年、川俣は代官山のヒルサイドテラスで「工事中」と題するプロジェクトを行なった。アートフロントギャラリーの企画で、この建物の内外を材木で覆っていく計画だったが、テナントから実際に「工事中」に間違えられて客足が遠のくとクレームがつき、途中で断念。ところがこれを写真週刊誌がスクープして人が集まり始めたため、テナントは手のひらを返すように続けてほしいとお願いしたらしい。ともあれ、川俣はその直後ACCの奨学金で渡米し、3年後にはドクメンタ8に参加。その年に出版した初の作品集はドクメンタの出品作品を表紙に使い、タイトルを『工事中 KAWAMATA』とした。「工事中」は初期の川俣にとってエポックメーキングなプロジェクトだったのだ。
あれから33年、「工事中」を「再開」するという。なぜいま? と訝しく思うが、「再開」にいたるまでにはいくつかの伏線があった。まずひとつは「代官山インスタレーション」の終焉。これは1999年からヒルサイドテラスを中心とする代官山界隈を舞台に、隔年で開催されたサイトスペシフィックなインスタレーションの公募展。企画はやはりアートフロントギャラリーで、「工事中」に刺激されたであろうことは審査員のひとりに川俣が選ばれたことからもうかがえる。さらに川俣のように都市と切り結ぶアーティストを発掘したいとの思惑もあっただろう。だが、目標は達成されたとはいいがたく、そこそこ楽しめる作品はあったものの、とびきり優れた作品もアーティストも輩出することなく4年前に幕を閉じてしまう。きっと川俣は歯がゆく思ったに違いない。「自分ならこうするのに」と。
ふたつ目は、ヒルサイドテラスの前に架かる歩道橋がこの秋、撤去されることになったこと。それがなぜ「工事中」の再開につながるのかというと、今回は建物の内外ではなく屋上に材木を組んでいるのだが、屋上でやるのは上からの視点を想定しているということであり、件の歩道橋の上から眺めるために制作したということだ。こうして川俣のインスタレーションを見るためにみんな歩道橋に上り、歩道橋の存在も記憶に刻まれるというわけだ。
そしてもうひとつ、この夏、「東京インプログレス」の一環として6年前に南千住に建てられた汐入タワーが解体され、廃材が大量に出たこと。この廃材が代官山に運ばれ、インスタレーションの材料として使われることになった。こうしていくつかの偶然が重なり、たまたま2017年の夏に実現することになったわけだ。実際に歩道橋の上から見ると、こんもりと材木が盛り上がっている感じ。カチッとしたモダン建築にザラッとした大量の材木が積み重なっているさまは、なにか心をざわつかせる。もはや陳腐なたとえだが、津波で流された廃材が建物に引っかかっている光景を彷彿させないでもない。屋上に上がってみると、材木を組んだ内部は人が動けるくらいの空洞になっていて、重なった材木越しに代官山の風景を見ることができる。1階のギャラリーには84年の「工事中」の写真・資料も展示され、アートフロントの北川フラムさんも、写真家の安斎重男さんも、PHスタジオの池田修(現BankART代表)も当たり前だが若い。池田くんなんか体積が半分くらいしかない。

2017/08/18(金)(村田真)

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