2017年12月15日号
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artscapeレビュー

キンダーブックの90年─童画と童謡でたどる子どもたちの世界─

2017年12月01日号

会期:2017/10/21~2018/01/14

印刷博物館[東京都]

『キンダーブック』はフレーベル館が刊行する幼児向けの月刊保育絵本。1927年(昭和2年)11月に誕生し、今年で創刊90年を迎えた。印刷博物館で開催されているこの展覧会は、90年にわたる『キンダーブック』の歴史を、実物や絵本原画などによって辿る。展示は4部で構成されている。第1部は「観察絵本キンダーブックの誕生」。明治の終わりになると印刷技術の発展にともなって雑誌のカラー化が進み、同時期に子供向け絵雑誌が誕生する。ここでは『キンダーブック』誕生までに刊行された子供向け絵雑誌の数々が紹介されている。なかでもその質の高さで知られていたのは、1914年(大正3年)に婦人之友社が創刊した『子供之友』と、1922年(大正11年)に東京社が創刊した『コドモノクニ』だろう。『キンダーブック』は現在刊行されている幼児向けの月刊保育絵本のなかで最も歴史が古いが、大正から昭和初期に掛けて創刊された子供向け絵雑誌のなかでは後発だった。第2部は「キンダーブックで見る昭和史」。子供向け絵雑誌とはいえ、『キンダーブック』は教育を目的としているので、その内容には日常の暮らしや同時代の社会が取り上げられており、誌面を追うことで時代の流れを読むことができる。ここでは歴史的な出来事を示した年表と合わせて誌面が紹介されていると同時に、常に子供たちの心を捉えたであろう内容がテーマ別に紹介されている。なかでも「のりもの」や「宇宙」は今も昔もとくに男の子たちの心を捉えるテーマだ。時系列に見ると、創刊から1935年(昭和10年)頃までの誌面に描かれた子供たちの日常生活と、第2次世界大戦直前の誌面に現れる戦闘機や軍艦、防空壕や炭坑の解説との対比がとても興味深い。『キンダーブック』は1942年(昭和17年)4月に『ミクニノコドモ』と誌名を変え、1944年(昭和19年)2月から1946年(昭和21年)7月まで休刊する。戦後の号では、人々の暮らしが急速に変化していくさまを見ることができる。第3部「表現の変遷」では『キンダーブック』に寄稿した画家たちの原画や、造本の工夫、付録が紹介されている。第4部「私のキンダーブック時代」は、キンダーブックの読者、制作に関わってきた作家や画家たちによるエピソードだ。
『キンダーブック』を刊行するフレーベル館は、高市次郎によって保育用品・教材の開発と販売を目的として、1907年(明治40年)4月に設立された。『キンダーブック』の創刊は創業から20年後のことになる。1926年(大正15年)に「幼稚園令」が公布され、幼稚園の保育項目に新たに「観察」が加わった。『観察絵本キンダーブック』の創刊にはそのような時代背景がある。編集には倉橋惣三、岸辺福雄、和田実らの幼児教育専門家、武井武雄、西条八十、巌谷小波などの童画家や童謡、童話作家が顧問として加わった。内容もさることながら、『キンダーブック』の特徴はその販売方法にある。先行する子供向け絵雑誌が書店で販売していたのに対して、『キンダーブック』は書店や販売店を通さず幼稚園への直接販売を行なったのだ。契約が取れれば1年間の販売部数が確定でき、返本のリスクが少ない。現在では多くの幼児向け保育絵本・児童向け学習雑誌が行っている方法をいち早く取り入れたのが、『キンダーブック』だった。
本展ではまた絵雑誌の印刷についても焦点が当てられている。なかでも顧問として編集にも関わった武井武雄は印刷に造詣が深く、狙った効果を出すためにイラストを色別に墨で描いて版をつくる試みもしていたという。図録には明治末から昭和初期に掛けての絵雑誌の印刷方法に関する考察が収録されており、現在一般的に用いられているプロセスカラー印刷でなぜ当時のような印刷表現ができないのかを知ることができた。平版印刷という仕組みは同様でも版の作りかたが違うのだ。[新川徳彦]

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2017/10/20(金)(SYNK)

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