2019年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

ラ コリーナ近江八幡

ラ コリーナ近江八幡[滋賀県]

藤森照信の設計した屋根に草の生えた建物は図版で見たことあるけど、それがなんの建物なのかは知らなかった。今回は生徒が予約してくれたのでただついていくだけだが、着いてみて驚いた。まるでジブリの世界を現実化したような大人心をくすぐる世界。いやもちろん子供心もくすぐるだろうけど、どっちかというと大人のほうが喜びそうな異世界だ。

緑に覆われた三角屋根の建物に入ってさらに驚いた。なんだお菓子屋じゃねーかよ! やけに混み合ってるなと思ったら、バウムクーヘン売り場の前にできた長い行列が、もはや線ではなく面と化して幅を利かせているからだった。ここは和洋菓子の「たねやグループ」のショップ、本社、飲食店だけでなく田畑まで備えた一大ゾーンなのだ。そういえば午前中、生徒たちに連れられてお茶とケーキをいただいたクラブハリエ日牟禮ヴィレッジも、たねやグループだったのね。し、知らなかった……。

3時すぎ、ツアー担当のおねえさんが登場し、敷地内を案内してくれる。おねえさんは、お菓子をつくりたくて入社したのに、なんで田舎者を連れてツアーやんなきゃいけないのかしら? みたいな素振りはいっさい見せず、ニコニコと草屋根の裏に広がる田んぼ、銅屋根の本社最上階の展望室と藤森ミュージアムなどを案内してくれた。最後の藤森ミュージアムには、ラ コリーナのスケッチやマケットなどが展示されていて、ツアー客でないと入れないという。これは得した気分。田んぼに4つの巨岩が並んでいるのを見て「もの派」を思い出したが、藤森の発想は案外もの派に近いというか、もの派をメルヘンチックに味付けした世界観ではないか。世代的にももの派のほんの少し後だし。

ラ コリーナ メインショップ

ラ コリーナ 田んぼ(手前)とオフィス棟(奥)

2018/05/27(村田真)

《ハルニレテラス》《ピッキオビジターセンター》《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢(旧飯箸邸)》

[長野県]

《星のや 軽井沢》は、宿泊エリア以外にも、外部の人が出入りできるレストランの「村民食堂」や「トンボの湯」などの施設をもち、さらに審査のときにはなかった新しい施設もいろいろ増えていた。例えば、川と車道に挟まれながらリニアに続く、《ハルニレテラス》(2009)も、東利恵とオンサイトがタッグを組み、屋外空間や自然と絡みながら、物販や飲食店が入る9棟が散りばめられている。クリエイター(障がい者)と支援者が作品を制作するRATTA RATTARRのプロダクトを販売しているNATURなど、興味深い店舗が入っていた。なお、いずれの建築も、宿泊棟と共通するのは、切妻屋根のヴォリュームである。

2016年に開業した《ピッキオビジターセンター》は、クライン・ダイサム・アーキテクツが建築を担当し、その正面に広がるケラ池スケートリンクはオンサイトによるものだ。これは曲線の輪郭をもつ池に沿って、弧を描く湾曲した建築が配置されている。造形言語としては、建築が外部空間と相互貫入するバロック的な手法だが、けっして重々しくない。むしろ、クライン・ダイサムらしいセンスで軽快さを演出しながら、自然環境に開いていく。ここは昼と夜を体験したが、それぞれ異なる表情に出会う。おそらく、冬に池がスケートリンクになると、全然違う状態になるだろう。

チェックアウトしたあと、《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢》に移動した。坂倉準三が戦前に手がけた世田谷の《旧飯箸邸》を移築・保存し、レストランとして活用している建築である。江戸東京たてもの園に移築された《前川國男邸》のように、大きな切妻屋根の木造モダニズムだが、白い直方体の空間は、吹き抜けによって上に伸びるよりも、大きな開口で庭に接続していく。興味深いのは、引き戸ではなく、外側にくるりと回転し、テラスの石の上でぴたっと止まる大きなガラス戸である。飲食しながら楽しめるモダニズムの空間だった。

《ハルニレテラス》


《ピッキオビジターセンター》


《ピッキオビジターセンター》




《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢》


《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢》

2018/05/19(土)(五十嵐太郎)

《星のや 軽井沢》

[長野県]

およそ10年前の冬、日本建築大賞の現地審査で《星のや 軽井沢》を訪れたとき、システム上は仕方ないのだが、昼に2時間ほど滞在するだけでは、魅力が十分にわからないと感じ、いつか泊まってみようと思い、それがようやく実現した。むろん、劇場建築も、そこで実際に音楽や演劇を鑑賞する体験なしに、空っぽのホールを見るだけでは物足りない。一方で美術館は、視覚中心の施設ゆえに、日中に2時間も滞在すれば、おおむね事足りる(それでも、季節や日時によって変化する光の状態はすべてチェックできない)。こうなると、住宅の場合は暮らしてみないとわからないという話になり、それはさすがに無理だが、宿泊施設はそもそも一時的な滞在を前提にしている。ましてや星のやは、ビジネスホテルと違い、飲食を含めて贅沢な時間を過ごすという体験を提供することが目的だ。さすがにいい値段だったが、リピーターがいるだろうと思わせる、それに見あう内容である。

ここで朝を迎えたら素晴らしいだろうという印象をもっていたので、水辺の部屋を選んだが、新緑の季節に朝昼晩を過ごす体験は格別だった。《星のや軽井沢》は、部屋を集積したホテルではなく、集落をイメージした分棟の形式を特徴とし、豊かな地形にあわせて、路地があったり、山側だったり、いくつかの個性的なエリアに分かれているが、とりわけ池を囲む空間は小世界をかたちづくり、集落らしさを強く感じる。全体としては、いったん自動車からのアクセスを遮断してから展開するランドスケープと建築の融合が絶妙だった。前者はオンサイト計画設計事務所、後者は東利恵が担当している。したがって、敷地を散策する楽しみが増幅し、建築だけでは到達できない空間の体験をもたらす。それなりに時間がかかるので、2泊が推奨されている意味もよくわかった。完全に人工的なテーマパークではなく、軽井沢の自然と地形を活かしながら、巧みにつくりこまれたことが最大の魅力だろう。




2018/05/18(金)(五十嵐太郎)

万博記念公園

[大阪府]

再生プロジェクトを終え、一般公開された《太陽の塔》を見学した。大阪万博をリアルに経験していないので、外観だけはこれまで何度も拝見してきたが、内部は初めてである。1970年というタイミングを考慮すると、「生命の樹」は前衛的なディスプレイ・デザインというか、巨大な空間インスタレーションだ。平成版の《太陽の塔》では、ゆっくりと見学できるよう、万博時のエスカレータを階段に変えたり、照明の新しい技術を導入するなど、オリジナルの復元ではなく、「再生」が意図された。補強としては、上部の鉄骨を増やし、コンクリートの壁を厚くし。また「生命の樹」の解体・再構築が困難だったことから、これをよけながら足場を組みたて、工事が行なわれたという。かつては《太陽の塔》の腕から「大屋根」の内部に入り、次の展示に移動するのだが、その「大屋根」を失ったため、腕の先端をのぞいても眺望はあらわれず、洞窟の奥のような不思議な体験だった。

万博記念公園では、太陽の塔の再オープンにあわせて、関連する展覧会が開催されていた。前川國男が手がけた《EXPO’70 パビリオン(旧鉄鋼館)》は、常設において万博のときの音と光のショーを体験できるが(制作は高橋悠治、武満徹、宇佐見圭司ら)、企画展「The Legacy of EXPO’70 Ⅱ Rebirth リバース 太陽の塔再生」では、図面、資料、パーツ、証言、模型、映像などを通じて、当時と今回のドキュメントを振り返る。また万博で活躍した黒川紀章による《国立民族学博物館》の「太陽の塔からみんぱくへ─70年万博収集資料」展では、万博の展示のために、1960年代末に若き人類学者たち(錚々たるメンバー!)が世界の各地に出かけ、収集した民族資料、当時の社会背景、現地のエピソードを紹介していた。収集した資料は、《太陽の塔》の地下などでも使われている。その後、このときのコレクションが民博のものになるわけだが、大阪万博の重要な副産物である。

左=「生命の樹」 右=腕のなか


《EXPO’70 パビリオン(旧鉄鋼館)》


「The Legacy of EXPO’70 Ⅱ Rebirth リバース 太陽の塔再生」展


「太陽の塔からみんぱくへ─70年万博収集資料」展


《太陽の塔》の地下

2018/05/14(月)(五十嵐太郎)

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建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの

会期:2018/04/25~09/17

森美術館[森美術館]

もっと歴史寄りの内容だと思っていたが、木材の可能性にフォーカスをあてた最初のセクションをのぞくと、想像以上に現代建築の比重が大きい。全体としては9つのキーワードによるセクションを設けているが、作品数が多いことに加え、解釈も開放系なので(なぜ、このセクションにこの作品が入っているか。一瞥して分からないものが少なくない)、いろいろな見方が可能な展覧会と言えるだろう。これは鑑賞する側が主体的に考える契機となる。興味深いのは、縄文対弥生といった20世紀の半ばの伝統論争の枠組はあえて外し、現代的な視点から異なる時代の建築を大胆に整理しており、ある意味では海外の企画のようにも見える。例えば、最後の自然との関わりでは、《名護市庁舎》《三佛寺投入堂》《聴竹居》、石上純也による山口の最新プロジェクトが並ぶ。とはいえ、キャプションの解説は正確で、とてもしっかりしている(日本の古建築はやや硬い文章だが)。

展示は、写真、図面、模型、貴重な史料を活用しているが、美術展とは違い、実物を見せることができないのは建築展の宿命である。そこで今回は、ディテールが省略されない1/3の《丹下健三自邸》の木造模型、実寸で再現された《待庵》(室内に入ることもでき、想像以上に暗い空間だった)、そしてライゾマによる日本のモジュールを題材としたカッコいい映像空間インスタレーションを新規に制作し、リアルな空間を体験させる仕掛けを効果的に導入していた。なお、海外も含む近現代建築をとりあげながら、歴史性に意識的だったポストモダンにやや冷たいセレクションでは? という印象を抱いた。5月26日に登壇したトークイベントにおいて、この疑問を企画者に指摘したところ、どうも出品がNGになったものがあるらしい。会場には多くの来場者が訪れており、ただ日本凄い! で終わるのではなく、この展示を契機に、建築史と理論への関心が増えれば、と思う。

「可能性としての木材」セクション


実寸で再現された《待庵》


《丹下健三自邸》の木造模型


齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャー《パワー・オブ・スケール》

2018/05/07(月)(五十嵐太郎)

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