2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

ブルノの青果市場、モラヴィア博物館

[チェコ、ブルノ]

映画『アンダーグラウンド』を連想させる、ブルノの青果市場の地下迷路を見学した。降りたり登ったり、右や左に行ったりと、まさに迷宮をたどるかのように、広場の下を歩く。中世から発展したもので、生ものの保管倉庫などに使われたらしい。モラヴィア博物館は、街の歴史や鉱物などを展示していた。ここの展示スタイルはやや古いが、それでも什器のデザインは統一されている。

写真:上・中=地下迷路 下=モラヴィア博物館

2017/09/18(月)(五十嵐太郎)

《トゥーゲンハット邸》

[チェコ、ブルノ]

最大の目的であるミースの《トゥーゲンハット邸》は、ツアー形式のみ見学可能なので、2回参加し、合計3時間ほど滞在した。最近修復されたおかげで、余計不純なものがない状態で見られるからなのかもしれないが、現物の空間(それも内部)を体験しないと全然わからない。とんでもない傑作である。しかも超超超豪邸だ。傾斜地に建ち、上の街路面のファサードはとても淡泊だが、室内に入ると、フルハイトのドアと什器が同レベルで存在し、緩衝帯としての小さな正方形の前室は四方向に接続し、それぞれの部屋へとアクセスする。家族や使用人(このエリアもしっかりとインテリアをデザイン)が暮らす上階は、計画的にもよく練られた構成だった。円弧を描く階段を下りると、リビングやダイニングが出迎え、《バルセロナ・パヴィリオン》的な空間が広がる。ただし、バルセロナほどリフレクションの効果は強くない一方、脇のサンルームに植物があり、生活の場であることが《トゥーゲンハット邸》の特徴だろう。石上純也によるヴェネツィア・ビエンナーレの温室に補助線が引ける空間だった。さらに下のフロアは洗濯場、多目的室、機械室などである。この住宅は、施主が数年しか暮らすことができず、ナチスの侵攻によってドイツ軍、その後はソ連軍、しばらくはダンス・スクールなどに使われ、相当改変された。それでも壊されなかったのは、住宅として大き過ぎる空間の冗長性ゆえに、さまざまに転用され、サバイバルできたからなのか。ル・コルビュジエは粗い白黒写真や図面でも空間のアイデアがある程度理解できるし、本人が五原則という風に刺激的な言説を添えているが、ミースにおける精度の高い素材のデザインが生む光や反射、空間の雰囲気は、現在の写真でも不十分にしか捉えられず、メディアの伝達が難しい。

2017/09/18(月)(五十嵐太郎)

バロック建築群

[チェコ、セドレツ]

ブルノから1時間半ほどの小さな街ゼレナー・ホラを訪れ、サンティーニによるバロック建築群をめぐる。4つのとんがり屋根を丸っこい回廊でつないだ墓地は、一応古典主義系だけど、かわいいという現代の形容詞がぴったりの変異したデザインである。すぐ近くの同じ建築家による《聖母マリア教会》を含む建築群も、かわいく聞こえる方言のような形態だった。そして、世界遺産にもなっている、お目当ての《聖ヤン・ネポムツキー巡礼教会》へ。丘の上の星形プランを5つの礼拝堂がつなぐ十角形の回廊が囲む。だが、非対称であり、それが複雑なデザインをもたらす。バロックは立体的なヴォリュームの操作が特徴だが、ボロミーニでさえ、このレベルに到達していない。起伏に富んだ地形が造形をさらにややこしくしており、サンティーニは驚くべきヴォリューム構成を実現した。《ネポムツキー》の内部に入ると、身がよじれるようなへんてこな反則技があちこちに散りばめられている。が、よく見ると施工は粗く、本当は石でやりたかった箇所も木製になっており、精度は低い。ザハ・ハディドの三次元造形が、広州の《オペラハウス》では残念な施工だったことを思い出す。とはいえ、サンティーニの示した複雑なデザインはもっと評価されるべきだろう。サンティーニや街の歴史を紹介する博物館が、予想以上に面白かった。新しいデジタル・テクノロジーを使いつつ、でも決して子ども騙しの内容とはせず、伝えるべき内容をセンスよく提示している。クラクフの地下博物館の展示デザインも優れていたが、日本の地方博物館が、想像の範囲内の似たり寄ったりのデザインに収まっているのとは違う。

写真:左中=墓地 左下=《聖母マリア教会》 上・右=《聖ヤン・ネポムツキー巡礼教会》

2017/09/17(日)(五十嵐太郎)

《日本美術技術博物館 MANGGHAマンガ》

[ポーランド、クラクフ]

地元では「マンガ」と言えば伝わる、磯崎新設計の日本美術・技術博物館へ。上部は木の構造でうねる屋根をつくり、川を挟んで、ヴァヴェル城を望む。メインギャラリーの中央に斜行する畳の空間を設けるが、枯山水などよりも、こたつが子どもに大人気で微笑ましい。別棟では、写真家Wojciech Plewinskiの知られざる作品の企画展だったが、こちらのキュレーションは見事だった。

写真:1段目・2段目左=《日本美術技術博物館》内観、2段目右=こたつ、3段目=ヴァヴェル城をのぞむ(左)、外観(右)

2017/09/15(金)(五十嵐太郎)

ヴァヴェル城、聖ペテロ聖パウロ教会

[ポーランド、クラクフ]

ヴァヴェル城のエリアに登る。中世から近世にかけて、最新のデザインを取り込みながら、リノベーションを繰り返し、旧王宮や大聖堂では、複数の歴史の層がデザインに刻まれている。特に旧王宮は、古層が見える発掘現場の上をうねるスロープで歩く空間体験を提供する展示デザインが秀逸だった。大聖堂は正面や側面、あるいは内部もポコポコと異なる様式のパーツを付加し、てんこ盛りである。全体の統一感やバランスはないが、旺盛に最新のデザインを取り込みながら、重ね書きしてきたことがうかがえる。イルジェズ教会風の外観をもつ《聖ペテロ聖パウロ教会》は、わりと様式の統一感があり、イタリアの建築家の仕事らしい。中央広場の《聖マリア教会》はやはりバランスを考えず、正面にぽこっと入口を付加している。これは他の地域であまり見ない、ポーランドの好みの造形かもしれない。また《バルバカン》と《フロリアンスカ門》は、戦闘防御施設なのだが、かわいらしい。

写真:1段目=《ヴァヴェル城》、左列上から=《ヴァヴェル城》《旧王宮》《大聖堂》《聖ペテロ聖パウロ教会》 右列上から=《聖マリア教会》《バルバカン》《フロリアンスカ門》

2017/09/15(金)(五十嵐太郎)

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